最強の大妖怪に取り憑かれた俺が最強の妖術師に!?

@popo4649

第1話:大妖怪大蛇

川のせせらぎが心地いい。森の木々の隙間から当たる暖かい日差しが、俺たちを照らしてくれている。ただただ、平和。こんな日常がこれからもずっと続くと思ってたんだ。この時までは…


ーーーーーーーーーー



昼過ぎの眠くなる時間、俺は姉さんと共に川へ釣りに来ていた。今晩の夕食を調達するためだ。


「ナオト、どっちが多く釣れるか勝負だよ!」


俺の姉さん、"山口ムツミ"は言った。18歳だというのに、川に来ただけではしゃぐお転婆な姉だ。両親がいない俺たちは、二人で支え合いながら生きてきたんだ。


「二人とも待ってよ〜!」


黒猫の妖怪"マタタビ"は走りながら言った。マタタビと出会ったのは、今から1年くらい前のこと。山に迷い込んで泣きそうになってたところを助けたことで、一緒に暮らすようになった。俺と姉さんとマタタビは三人で、なんの刺激のない平穏な暮らしを送っていた。


「6匹くらい釣れたらいいかな。二人ともお手伝いお願いね。」


「はいよ。さっさと終わらせようぜ。」


姉さんの白くて長い髪が風にたなびく中、俺たちは釣りを始めた。俺と姉さんがぽけーっと釣竿を垂らして待っている時、マタタビは川の中に入って素手で捕まえようとする。その小さな足と手で、マタタビは魚を川から叩き上げていく。


バシャッ!


「また取れた!これで三匹目!」


「マタタビすごい!私も負けてられないな〜。」


平和だ。なんの変哲もない、いつも通りの毎日。

俺はこの平穏な生活が大好きなんだ。


ーーーーーーーーーー


俺たちは夕飯に必要な分の魚を釣って帰ってきた。

山の中のこじんまりとした一軒家、ここが俺たちの帰る場所だ。正直ボロくて小さい。でも俺にとっては十分だ、二人さえいてくれれば。


「ねぇナオト、その、お米切らしちゃってたみたいなの。街まで行って買ってきてくれないかなぁ。ちらっ?」


姉さんはくねくねしながら上目遣いで頼んできた。正直めんどくさいけど、夕飯に白米がないのはまずい。


「仕方ないな、行ってくるよ。でも今からだと、帰り遅くなっちゃうかもだけど。」


「大丈夫!」


姉さんの申し訳なさそうな顔は一瞬で消え去り、すぐさま笑顔で言ってきた。


「ねぇナオト、私も行きたい!」


マタタビは言った。


「わかった、じゃあ行くか。」


「二人とも気をつけてね。」


姉さんが見送る中、俺はマタタビを連れて山を下り、城下町まで向かう。


ーーーーーーーーーー


俺たちが住んでいるのは"ラン"という、将軍率いる幕府が収める国だ。桜の木が美しく咲き誇り、城下町は優美な雰囲気を醸し出している。買い出しの時は城下町まで降りてこなければならない。俺はいつもの農家のおじさんの元へやってきた。


「すいません、お米ください。」


「あいよ、このくらいでいいかい?」


「はい、大丈夫です。」


俺は米の入った袋を両手に引っ下げて帰路につく。


「マタタビ、帰るぞ〜。」


「は〜い。もう夕方になっちゃったね。早く帰らないと、ムツミがお腹空かせちゃうよ。」


「そうだな、早く帰ろうぜ。」


俺たちは城下町を出て、いつもの帰り道を通って山を登っていく。


ーーーーーーーーーー


辺りはすっかり暗くなり、風が木々を揺らす音が不気味にこだまする。もう少しで着くといった時にマタタビが言った。


「ナオト、なんか、血の匂いがする…」


マタタビは不安そうに俺の顔を見つめてくる。マタタビは鼻が効くから、間違いないだろう。俺は嫌な予感がしてきた。血の気がサーッと引いていくのを感じる。俺は走り出す。


「あ、ちょっと、一人にしないでよ〜!」


俺は無我夢中で走る。最悪の状況が何度も頭をよぎり、その度にかき消す。家に近づくにつれて、ほんのりと香る血の匂いが鼻の奥に突き刺さる。その匂いは最悪のシナリオを決定づけるには十分だった。そんなことはないと信じたかった。家に帰ると姉さんがいつもみたいに、おかえり、と笑顔で迎えてくれる。きっといつもみたいに…


しかし現実は覆らない。この日、俺の幸せは砕け散った。家の明かりは消えていて、玄関の前には血痕があった。不気味に吹く風の音が俺を嘲笑っているかように聞こえる。


「あ、あ…」


マタタビは声にならない声をあげる。無理もない。 俺も目の前の現実を受け止められずにいた。


「姉さん!姉さん大丈夫か!返事をしてくれ!」


家の中に入ると強烈な血の匂いがした。血痕こそあれど姉さんの姿が見当たらない。姉さんは、どこにもいない。


(どういうことだ、何があった、なんで、なんでこんなことに…)


俺とマタタビは周辺をくまなく探したが、手がかりの一つも見つからなかった。あるのはボロボロになった家具と血痕だけ。完全に消息不明。

生きてるのか死んでるのかさえわからない。

俺の大好きな姉さんは突如として姿を消した。


「ムツミ、生きてるよね…?」


マタタビは震えながら言った。俺もそう信じたかった。でも、断言はできなかった。姉さんはもう、死んでるのかもしれない…


ガサガサ!


俺とマタタビが途方に暮れていた時、草むらから赤い蛇が現れた。その蛇は俺たちに急接近してくる。


シャアアアアア!


「うわっ!なんだこいつ!」


赤い蛇は俺の足からするすると登ってきて、首に噛み付いてくる。


「痛っつ!」


「ナオト!大丈夫!?」


蛇に噛まれた途端、頭がぼんやりとしてきた。俺の意識は徐々に闇の中へ消えていく。マタタビが叫ぶ言葉は徐々に遠くなっていき、俺の意識は完全に途絶えた。


ーーーーーーーーーー


俺が目を開けると、そこには赤黒い空が広がっていた。地面には水溜まりほどの浅さの水が広がっていて、一本の赤い紅葉の木が生えていた。


(なんだここ、俺、どうなっちゃったんだ…)


俺が現状を考察していた時、背後から男の声が聞こえてきた。


「何が起こったのか、まるでわからないといった感じだな。」


声のする方へ振り返ると、そこには黒い玉座に座る一人の男がいた。白い髪で血のように赤い目を持っているその男は続けて俺に言った。


「ここは余とお前の精神空間だ。どうやらここでは、余とお前は同列らしい。癪に障るがな。」


俺は恐る恐るそいつに尋ねる。


「お前は、誰だ。」


「口の利き方がなっていないな。まずはお前が名乗れ。」


そいつは見下しながら告げる。


「俺は、山口ナオトだ。お前は?」


「その態度は気に食わんが、まあいい。

余の名は"オロチ"、最強の大妖怪、オロチとは余のことだ。」


(オロチ?大妖怪?なんの話だ。)


「えっと、今どういう状況?」


「余が一から説明してやる。一度しか言わん。よ〜く聞いておけ。」


オロチの言い方が鼻につくが、俺はオロチの説明に耳を傾ける。


「たった今、余がお前に取り憑き、体の中に入った。

お前に残された選択肢は二つだ。大人しく余に体を明け渡すか、ここで死ぬか、どちらか選べ。」


オロチはそんな物騒なことを言ってきた。


「ちょ、ちょっと待て!そんないきなり言われても…」


体を明け渡すか死ぬか?冗談じゃない。なんでこんな奴に。


「どっちを選んでも俺は不幸になるじゃないか!

こんなの、選択って言わないだろ…」


「そうでもないぞ?お前の生死がかかっている。

余としても、なるべくお前を殺したくはない。

さあ、どちらか選べ。」


オロチは平然と言った。


「待て!待ってくれって!情報が足りなすぎる。

何が目的なんだよ!」


「余の目的は、失った力の全てを取り戻すことだ。今の余にはかつての圧倒的な力はない。それを取り戻すために、お前の体が必要だった。だからお前の体を狙った、ただそれだけのことだ。」


「なんだよそれ、こんな迷惑な話があるかよ。

俺は今忙しいんだよ。姉さんを探さなきゃ…」


俺がそう言うと、オロチはため息をついて言った。


「…仕方あるまい。なら、お前の姉探しを協力してやる。だから余に協力しろ。これは契約だ。互いに利益を得られる、悪くない条件のはずだ。」


「協力って、本当はお前が姉さんを殺したんじゃないのか!?」


「いいや違う。余が来た時にはすでにあの有様だった。そして状況的に、まだ生きている可能性もある。さっさと探しにいきたいだろう?」


オロチの言葉は信用できない。

でももしかしたら本当に、姉さんは生きてるかもしれない。また、俺たち三人で幸せに暮らせるかもしれない。そのためには…


「どうした、早く決めろ。」


こんなやつを体の中に入れておいてもいいのか?

何をされるかわかったもんじゃない。

でも、姉さんのためなら俺は…


「わかった、協力する。だから姉さんを探しに行かせてくれ。」


「ふっ、契約成立だ。」


オロチがニヤリと不気味な笑みを浮かべたのと同時に、再び俺の意識は闇へと堕ちていく。


ーーーーーーーーーー


「な、ナオト、大丈夫?」


「くっ、ふふ、」


「ふはははは!この妖力、素晴らしい!

さ〜て、余の"宝玉"を取り返しに行くとするか!」


やはりこの小僧を選んだことに間違いはなかった。こいつの体なら、余は力を取り戻せるだろう。


「ナオトじゃない…誰!」


そばにいた黒猫の幼女が言った。


「騒ぐなちんちくりん。耳障りだ。」


余が目の前の黒猫の妖怪を無視し、嵐の城下町に向かおうとした時、背後からとてつもない殺気を感じた。


「" 風凪流一閃かざなぎりゅういっせん 風哭ふうこく"!」


余は瞬時に姿勢を低くし、その刺突を回避する。

余が振り返るとそこには、金髪で目が青く、白い服に空色の羽織を身につけた女が、刀を持って立っていた。


「妖術師か、かなりの手慣れだな。名乗れ、お前は誰だ。」


「私は" 風凪かざなぎカグラ"、" 妖伐隊ようばつたい "の三番隊隊長を務めているものだ。妖伐隊の名において、ここでお前を退治する!」


「生意気な女だ。いいだろう!この大妖怪、オロチが相手をしてやる!」



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