10日目
あら。早かったじゃないと。忙しくも暇でもないレジの行列を捌きながら先輩社員がわくわくしている。いや、そわそわと言ったほうが適切かもしれない。お客さんに聞こえなように耳打ちをして、敗者復活戦を勝ち抜いたコンビの名前を告げると。子供みたいにそわそわしていた顔が一気に暗くなってしまった。
「推しは残れなかったのね」
聞けば勝ち抜いてほしかったコンビの名前ではなかったらしい。でも、仕方ないのよと続ける。
「人生にはタイミングって言うのがあるの。私の推しはそれを逃してしまった。実力もあるしちゃんと面白いのだけれどね。やっぱり、大舞台に立つ人って言うのはなにかを持っている人だと思うわ」
たんたんと事実を述べるだけ。先輩社員のその言葉がやけに耳に残った。
「あのっ!」
ぼーっとしすぎた。レジの前に男の子がいて、自分の背丈よりも高いカウンターの向こうからこちらを見上げている。
「あっ。いらっしゃ……」
「サンタさんっ!」
春のほうを指さして元気にそう叫んだ。一瞬だけど驚いて自分を自分で指さす。
「そうっ! サンタさんっ!」
自分の格好を思い出すのと同時に仕事であることも思い出して恥ずかしくなる。
「そ、そう。サンタさんなのですっ。ほっほっほっ」
サンタさんのしゃべり方ってどうやるんだろうと悩ませながらかろうじてそれっぽい笑い方をする。自分の声とは思えないくらい低い声でだ。
「あの。これくださいっ」
背伸びをしながらカウンターの上に置いたのはサンタさんが描かれた絵本。母親と思われる女性が頭を下げながら近づいてくる。迷惑をかけたと思っているらしい。
大丈夫ですよ。と声を掛けてからお会計をする。満足げに本を大事そうに抱えながら去っていく少年を見送る。
「サンタの格好いsてよかったわね」
先輩社員の一言に小さく頷いた。
自分でもなにがよかったのか。なにが自分の中で響き続けているのか理解できない。でも、初めてとも言えるくらい。ここで働いていてよかったと実感していた。
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