第14話 一時的な休息

「朔夜さん! 朔夜さん、しっかりしてください!」


花は、瓦礫の山に横たわる朔夜の肩を必死に揺さぶった。意識はないが、微かな鼓動と呼吸を確認し、花は安堵の息を漏らす。 花は震える腕で朔夜を抱え上げ、一歩ずつ足を引きずるようにして、動けずに座り込んでいる俊の隣まで彼を運び込んだ。


「ごめん、花……身体が、全く言うことを聞かないんだ……」 「いいんです、俊さんは無理しないで。今、朔夜さんの手当をしますから」


花は手慣れた様子で救急キットを広げ、朔夜の傷を消毒し、包帯を巻いていく。しかし、内科的なダメージを危惧し、花がどうすべきか眉をひそめたその時だった。


カツン、と乾いた音が廃墟に響く。


三人の前に影が落ちた。見上げれば、そこには見覚えのある、真っ白なお面に茶色のローブ、そして整ったカンカン帽を被った「あの人」が立っていた。


「あ……」 俊は、反射的に異能を使おうとして、すぐにやめた。これまでもそうだったが、この人物の側にいると心が全く読めない。敵意はないと分かっていても、その底の知れなさに俊はいつも通り微かな緊張を覚える。


謎の人物は無言のまま、朔夜と俊をひょいと軽々と持ち上げた。そして、驚く花に短く告げる。


「……着いておいで」


導かれた先は、死に絶えた日本において、奇跡的に機能を維持している地下病院だった。 二人をそれぞれのベッドへ運び終えると、謎の人物は花と静かに目を合わせ、何も言わずに風のように姿を消した。


五時間後。


「……う、ぐ……っ」 真っ白な天井を見上げ、朔夜が短く呻き声を漏らした。


「朔夜さん!」 ベッドの脇にいた花が、パッと明るい表情で身を乗り出す。その声に、隣のベッドで横たわっていた俊も、痛む体に顔をしかめながら首を巡らせた。


「……朔夜、気がついたか」 俊は起き上がることすらままならず、横たわったまま声をかけた。


「……あいつは。あの仮面のガキはどうなった」 朔夜は痛む身体を横たえたまま、悔しげに問いかけた。 「逃げたよ。……正確には、僕たちが生き延びたんだ」


俊は、全身を襲う倦怠感と戦いながら、あの戦いの結末と、土壇場で発現した「未来の軌道」を視る力の話を伝えた。


「お前の異能が覚醒した……だと?」 朔夜は苦々しく顔を歪め、天井を睨みつけた。 「……クソッ。俺が不甲斐ないせいで、お前にそんなリスクを背負わせちまったな」


だが、朔夜はフッと自嘲気味に笑うと、少しだけ誇らしげに隣のベッドの俊を見た。 「……けどよ、よくやったな。お前がその力を使わなきゃ、俺たちはここで終わりだった。……ありがとな、俊」


朔夜からの素直な言葉に、俊は一瞬目を見開き、それから静かに微笑み返した。 そこへ、白衣を着た医師が部屋に入ってくる。


「二人とも、容態は安定しているようだが……無理は禁物だ」 医師は淡々と、しかし重い事実を告げた。 「朔夜君は肋骨の骨折と内臓への強い打撲。俊君は……神経系の過負荷が深刻だ。全治には最短でも一ヶ月はかかる。ここでしっかりと治療に専念してもらうよ」


「一ヶ月か……」 窓の外に広がる、静まり返った廃墟の空を見つめながら、三人は顔を見合わせた。この一ヶ月の間に、自分たちは何を変えられるのか。これからの厳しい旅路について、三人は深く、静かに語り合い始めた。

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