第13話 覚醒の軌跡

巻き上がった砂埃が、ゆっくりと風に流されていく。


「……俊さん!」


花の悲痛な叫びが響く中、視界が開けた。そこにあったのは、凄まじい威力で砕け散ったコンクリートの地面と、その中心に立つ仮面の少年の姿だった。


しかし、少年の足元に俊の姿はない。


「……え?」


花が息を呑む。俊は、少年の背後、数メートル離れた場所に立っていた。激しく肩で息をしながらも、その身に大きな傷はない。


俊自身、自分がどうやって生き延びたのか、困惑していた。少年の蹴りが炸裂する直前、彼の脳内では劇的な変化が起きていたのだ。


(何だったんだ……今のは……)


俊は自分の手を見つめ、脳裏に焼き付いた感覚を反芻する。少年の蹴りが放たれる寸前、俊の異能が捉えたのは、少年の思考ではなかった。少年の脚が描くであろう「赤く光る攻撃の軌道」。そして、それとは別に、自分から伸びる「青い謎の軌道」が視えたのだ。


その青い線をなぞるように体を動かした瞬間、俊は自分の限界を超えた速度で移動していた。まるで、未来に引かれたレールの上を滑ったかのような感覚。


「……避けたのか」


仮面の少年が、低く、驚きを孕んだ声を漏らす。鉄製のマスクの奥にある瞳が、初めて俊という存在を明確に「イレギュラー」として捉えた。


少年は間を置かず、再び踏み込んだ。一瞬で距離を詰め、目にも留らぬ速さで拳を突き出す。


ドッ、ドォン!


空気を切り裂く衝撃。しかし、俊の目には再び「青い線」が視えていた。俊はその線に従って最小限の動きで体を反らす。拳は俊の頬をかすめることすらできず、虚空を突いた。


「当たる……! 今なら!」


俊は回避の勢いのまま、少年の懐へ掌を叩き込もうとする。しかし、俊の攻撃が届く直前、少年の体が不自然な角度で揺らぎ、俊の掌は空を切った。


俊の攻撃は当たらない。だが、少年の攻撃もまた、俊には届かない。


超高速の攻防が数合繰り返される。互いに決定打を欠いたまま、廃墟には激しい衝撃音だけが虚しく響き渡る。少年は動きを止め、スッと間合いを取った。


「不毛だ」


その声に、先ほどまでの冷たい怒りは消え、事務的な冷徹さが戻っていた。


「……これ以上は、時間の無駄だ」


少年は俊を深く睨みつけると、音もなく背後の闇へと溶け込むように姿を消した。


「待て……っ!」


俊が追おうとして一歩踏み出した瞬間、激しい激痛が全身を襲った。限界を超えた加速に筋肉が悲鳴を上げ、膝ががっくりと折れる。


「俊さん! 大丈夫ですか!?」


駆け寄ろうとする花に、俊は苦しげに顔を上げ、声を振り絞った。


「僕はいい……! 先に、朔夜を見てやってくれ!」


「……! はいっ!」


花は一瞬迷った表情を見せたが、俊の言葉に頷くと、瓦礫の中に横たわったまま動かない朔夜のもとへと必死に駆け出した。

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