第12話 予測不可能

朔夜は地面に倒れ伏しながらも、辛うじて意識を保っていた。全身が焼けるように痛むが、それ以上に、何が起こっているのか理解できない混乱が、彼を支配していた。


目の前には、黒い鉄製のマスクをつけた少年が、微動だにせず立っている。その長い黒髪と冷たい瞳からは、一切の感情が読み取れない。


「ぐっ……てめぇ、一体何の異能を……!」朔夜は、全身の力を振り絞り、這うようにして立ち上がった。彼の両腕には、異能の光が不規則に揺らめいていた。


「無駄だと言ったはずだ」少年の声は冷たく、静かに響いた。彼の言葉には、朔夜の存在に対する明確な苛立ちが含まれている。


朔夜は、先ほどの二発の攻撃で、相手の攻撃が人間離れした速さを持つことを理解していた。彼は、もう一度、全力の弾丸を放つ。


キュオオン!


周囲の地面の瓦礫全てを、少年めがけて猛スピードで射出する。それは、小さな砲撃と呼べるほどの質量と速度を持っていた。


しかし、その全ての弾丸は、少年の体には当たらない。


朔夜の視界では、少年はごくわずかに体を揺らしているように見える。しかし、その動きはまるで予測の枠を超えている。左に動くと思えば、右に半歩ずれ、全ての攻撃が、少年の体を僅か数ミリの差で避けていく。


「馬鹿な……!」


朔夜が体勢を崩したその一瞬、少年の姿が消えた。


朔夜の目の前に、少年が再び現れる。そして、彼の右の掌底が、朔夜の胸の急所を正確に捉えていた。


ドゴォンッ!


「がはっ……!」


朔夜の体は、背後の瓦礫を完全に破壊し、コンクリートの粉塵を巻き上げながら、激しく吹き飛ばされた。全身を貫く激痛。その一撃で、朔夜は完全に意識を失った。


「朔夜さん!」 花が悲鳴を上げた。


俊は、瞬時に前に出た。


「そこまでだ!」俊は叫んだ。


仮面の少年は、興味を失ったかのように朔夜を一瞥し、そして俊に向き直った。


俊は、異能を最大出力で発動させた。彼の異能は、あらゆるものを透視する力に加え、人間の思考や行動、その瞬間の動きの意図を読み取ることができる。


(落ち着け……相手の心を読むんだ。次の動きさえ分かれば……!)


俊の脳裏に、少年の次の行動を読み取ろうとする回路が、猛烈な勢いで働き始めた。


しかし――何も読めない。


思考のノイズすら感じられない。彼の意識が少年の心に触れようとしたその刹那。


少年は、予備動作を一切感じさせず、俊の顔面めがけて、渾身の回し蹴りを放った。


俊の視界の中で、黒い鉄製のマスクと長い黒髪が、風を切り裂きながら迫る。


(なんてことだ、読めない! 心を読んだはずなのに、なぜこの男の動きが分からないんだ!?)


俊の脳裏を、異能が初めて通用しなかったことへの驚愕と混乱が駆け抜けた。彼がその答えにたどり着く間もなく――


バキャァァァン!!


一際大きな衝撃音が廃墟に轟いた。蹴りが炸裂した瞬間、周囲の地面と壁が抉り取られ、辺り一面に凄まじい砂埃とコンクリート片が充満した。


視界は完全に遮断された。


「俊さんっ!」


花は、視界を覆う砂埃の向こうに向かって、ただひたすらに大切な仲間の名前を叫び続けた。

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