第7話 お面と拳
ペルセの剛腕が、俊の顔面めがけて振り抜かれる。その拳からは、地面をも砕くような轟音がすでに漏れていた。
「俊!!」
「俊さん!!」
朔夜と花の絶叫が、廃墟の高架下に鋭く響き渡る。その命運が尽きる刹那――。
ドォン!
二人の間に、茶色いローブとカンカン帽に、真っ白なお面をつけた人影が、空間を無視したかのように音もなく割り込んだ。
ペルセの異能『粉砕』が込められた拳は、その人影、白いお面をつけた人物の胸に突き刺さるように直撃した。
異能の特性上、生物に触れたペルセの拳は、触れた対象の身体を5秒間硬直させるはずだ。しかし、ローブの人物は全く動じない。攻撃を受けたその体は微かに揺らめいたものの、硬直の兆候は一切見られなかった。
お面をつけた人物は、拳を受け止めた直後、音もなく、ペルセの腹部に強烈な蹴りを繰り出した。
「ぐぉっ!」ペルセは激痛に呻き、その驚異的な跳躍力で大きく後方に飛び退いた。
ペルセは地面に降り立つと、驚愕に目を見開いた。「なぜだ!?俺の異能が効いてねぇ!?なぜ硬直しない!」彼は、戦場で幾度となく勝利を収めてきた絶対の自信が崩壊したことに、混乱していた。
朔夜は、この一瞬の混乱を見逃さなかった。白いお面をつけた人物の能力は謎だが、確実にペルセの最大の武器を無効化している。今のペルセはただの体格のいい男だ。
朔夜は叫ぶと、素早く周囲のコンクリートの塊を握り込み、異能『引金』を発動させた。
キュオオン!
瓦礫が弾丸と化し、後退したばかりで体勢を立て直せていないペルセの顔面めがけて飛んだ。ペルセは咄嗟に反応した。
「チッ、また瓦礫か!」
彼は反射的に右の拳を瓦礫に向けて振り抜いた。しかし、朔夜の投げた瓦礫は、先ほどのように砕けることはなかった。
ゴン!
瓦礫はペルセの拳に直撃し、彼の硬い皮膚を割って鮮血が飛び散った。ペルセは痛みで大きく怯んだ。
「おらよぉ!」
朔夜は追撃の手を緩めない。即座にもう一つの瓦礫を、弾丸よりも速い速度でペルセに投げつけた。ペルセは痛みに呻きながらも、拳で顔面を庇おうとするが、その剛腕は追いつかない。
バギャン!
瓦礫はペルセの顔面にまともに食い込み、衝撃でペルセは後方に崩れ落ち、意識を失った。
朔夜は乱れた呼吸を整えながら、最後の敵であるアテーナーに視線を向けた。アテーナーは、優雅な笑みを完全に消し、警戒心と困惑の入り混じった表情で立ち尽くしていた。
「チッ、手間をかけさせるわね!」
アテーナーはそう言い放つと、朔夜から身を守るために瞬時に自分の周囲に見えない防御壁を幾重にも展開した。
朔夜は無言で、残った力を込めて、再び瓦礫をアテーナーの顔めがけて投げつけた。
次の瞬間、アテーナーの展開した防御壁が、跡形もなく、瞬時に消滅したことにアテーナーは気づいた。
「えっ!?」アテーナーは驚愕した。壁は3分間有効であるはずだ。
瓦礫はそのまま、無防備になったアテーナーに向かって飛んでいく。アテーナーは咄嗟に身を翻し、顔面への直撃は避けたものの、瓦礫は彼女の左肩に痛烈に食い込んだ。
「きゃああ!」
アテーナーは苦痛に顔を歪め、体勢を崩した。彼女はペルセを助け起こすことも、戦闘を継続することも不可能だと判断する。
「覚えておきなさい!」
アテーナーはそう吐き捨てると、すぐに反対方向へ猛スピードで逃走し始めた。
朔夜は、血の気の引いた顔で倒れたペルセを見やり、即座にアテーナーを追いかけようと走り出す。しかし、その肩を、背後から現れたローブの人物が静かに掴んだ。
「だめだ。追うな」
ローブの人物は、追い立てるような朔夜の腕を、驚くほど強い力で制止した。その低い声は、感情をほとんど含んでいなかった。
朔夜は、追撃を阻まれたことに苛立ちながらも、その人物が発する圧倒的な圧力に逆らえなかった。彼は渋々足を止め、倒れたペルセと、その隣に静かに立つお面をつけた人物を見比べた。
「あんた、誰なんだ?」
朔夜は、この戦いの最大の勝因となった謎の存在に、ただそう問いかけるしかなかった。
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