第3話 秘密を知る眼

鋭い目つきの青年の問いかけに、花は反射的にリュックを抱きしめたまま身構えた。目の前の二人の青年は、戦場の死臭に慣れた兵士とは雰囲気が異なっている。しかし、この世界で、正体不明の人物に警戒を解くことは死を意味した。


「あなたたち…誰?」


花が絞り出した声は震えていた。


鋭い目つきの青年は、ふっと口元を緩めた。


「おっと、安心しな。俺たちはただの旅の者さ。ちょっとした用事でこの街に寄っただけだ。まさか、あんな大物と鉢合わせるとは思わなかったけどな」


青年は親指で先ほど倒した巨漢の兵士を指し、その異能を褒めるように肩をすくめた。その隣で、色素の薄い髪の青年は、花の目をただ静かに見つめ、口を開いた。


「怖がらせてごめんね。僕たちは敵じゃない」


色素の薄い髪の青年は、鋭い目つきの青年とは対照的に、穏やかで落ち着いた声で言った。その声には、人を安心させる不思議な響きがあった。


花は緊張で強張っていた体を少し緩めた。彼らの立ち居振る舞いに、敵意や、先ほどの兵士のような残忍さは感じられない。そして何より、彼らは自分を助けてくれたのだ。


「…ありがとう、ございます。助けてくれて」


「礼なんていいよ」


色素の薄い髪の青年が言った。


鋭い目つきの青年が口を開いた。


「俺は柳朔夜(やなぎさくや)。異能は『引金(トリガー)』。見ての通り、手に持てるモンなら何でも弾丸みてーにぶっ放せる。さっきの瓦礫も、俺の仕業だ」


朔夜は自慢げに手のひらに石を乗せ、それを弾き飛ばして見せた。花は息を呑んだ。人の頭ほどの瓦礫を、正確に、しかもあれほどの巨体の持ち主を倒す威力を出す力は、確かに強大だった。


次に、色素の薄い髪の青年が続けた。


「僕は咲西俊(さかにしすぐる)。異能は『透視(サイト)』。壁の向こうや、人の心くらいなら、覗き見ることができる」


俊は淡々と異能を説明した。人の心を覗き見るという異能は、花にとって少し恐ろしいものに感じられたが、彼の静かな眼差しは信頼できるもののように思えた。


「で、お嬢ちゃんは?」朔夜が促す。


花は意を決し、深呼吸をして、家族を失った悲しみを押し殺すように自分の名を告げた。


「小埜沙菜花(おのざなはな)…16歳です。異能は『栽培』。土があれば…どこでも、植物を育てられます」


そして、旅の目的を話した。


「私は…『幻の花園』を探しています。家族を…生き返らせるために」


花がその悲壮な願いを口にした瞬間、静かに花を見ていた俊の瞳孔が、微かに、一瞬だけ開いた。彼の穏やかな顔に動揺の色は浮かばなかったが、その視線は、まるで花の奥底に隠された何かを探ろうとするように、一瞬だけ鋭く集中した。


朔夜と花は、そんな俊の微細な変化に気づかない。朔夜は、花が口にした「幻の花園」という言葉に、興味を掻き立てられていた。


「へえ、幻の花園ねぇ。都市伝説の類かと思ってたが、マジで探してる奴がいるとはな」朔夜は目を輝かせて言った。「つーか、家族を生き返らせるって…おいおい、花、その花園ってのはそんな凄いもんなのか?」


花は、力なく頷いた。


「はい。何でも願いが叶うって…だから、私は…」


花は言葉に詰まり、唇を噛み締める。


「小埜沙菜さん」


俊が口を開いた。彼の声は落ち着いているが、先ほどよりもどこか強靭な意志が込められていた。


「君のように、たった一人でこの戦場を旅するのは危険すぎる」


「え…?」


「君の異能は『栽培』だ。生存には有利かもしれないが、戦いには向かない。朔夜なら君を守れる。だから、僕たちを君の旅に同行させてくれないか」


朔夜は俊を見て、その真剣な眼差しに肩をすくめた。俊が誰かを積極的に旅に誘うのは珍しいが、深く考える必要はないと判断した。


「…まぁ、そういうことなら。いいぜ、俺もついてってやるよ、花。あんたが一人でやれるような旅じゃねえ」朔夜は軽く笑いかけた。


花は戸惑った。彼らは信用できるのか?しかし、先ほどの敵を瞬殺した朔夜の力、そしてこの旅の危険性を考えれば、彼らの申し出を断ることは自殺行為にも等しい。何よりも、この先の旅で、彼女は確実に命を落とす。


「…私、もし一緒に行くなら…」


「君の家族を生き返らせるという願いを、僕たちが否定することはない」俊は花を見つめて言った。「君の目的地まで、僕も朔夜も付き合う」


花は、彼の言葉に最後の迷いを捨てた。


「…わかりました。お願いします」


荒廃した戦場に、願いを背負う少女と、二人の青年。三人の旅は、こうして、世界の運命を巻き込みながら、静かに始まったのだった。

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