人狼ゲーム

白雪 愛琉

第1話

★主人公

花咲 千春(はなさき・ちはる)


役職:10(占い師)

22歳。小柄で控えめ、だけど芯の強さを秘めている。

嘘と本音を見抜く力が昔から強く、友達から相談されるタイプ。


過去に「人を信じすぎて裏切られた経験」があるため、

占い師としての能力はあるが、

“自分の判断が誰かを殺すかもしれない”恐怖と戦う。


◆性格

・優しい

・慎重

・思い悩むタイプ

・でも本当に大切なもののためなら行動できる


千春の成長テーマは

「信じるべき相手を、自分で選ぶ」。


——ここから物語が始まる。



★他 8人の参加者


それぞれが「カードの館」に招かれた理由を持つようにして、

ミステリー・ホラーに厚みを出してあるよ。


==============================


◆人狼陣営


==============================


■ジョーカー(人狼)


●九頭 鷹斗(くず・たかと)


27歳。元刑事。

正義感が強すぎて、犯人逮捕のために“ある事件”で過ちを犯した過去がある。

館に呼ばれたことを「罪への罰」と思っている。


ジョーカーを引いた瞬間、

身体が黒い影に侵食される“微ホラー描写”あり。


日中は理性的だが、夜は獣化し自我が揺らぐ。



■9(狂人/裏切り)


●宵宮 灯葉(よいみや・とうは)


20歳の大学生。

人懐っこく、明るく、ムードメーカー。

しかし内側は“空っぽで、刺激を求めている”。


人狼に味方すると決め、

議論を混乱させて楽しむタイプの危険人物。


千春を気に入り、

じわじわ精神攻撃してくる“ホラー担当”。


==============================


◆村人陣営


==============================


■村人(1〜7)


●1:佐伯 美沙(さえき みさ)


19歳。看護学生。

優しすぎて疑われがち。

千春と友情が芽生えるが、途中で残酷な決断に巻き込まれる。


●2:大河原 剛士(おおがわら つよし)


34歳。元ラガーマンの工場勤務。

見た目はいかついが、子供好きの善人。

守りたい相手ができると命も張れるタイプ。


●3:姫路 葵(ひめじ あおい)


25歳のモデル。

美人でプライドが高いが、意外と臆病。

終盤で本性(弱さ)を千春に見破られる。


●4:三ツ矢 連(みつや れん)


17歳。高校生。

頭が良く推理力もあるが、他人を信用しない。

嘘つきの天才だが、本当は優しい。


●5:安堂 凪紗(あんどう なぎさ)


23歳。保育士。

心優しく涙もろい。

「人を守る」をテーマにした心の支えポジション。


●6:影山 玲於(かげやま れお)


28歳。フリーの映像作家。

観察眼が鋭い。

冷静で、少し影のある男性。

千春の推理の壁になる。


●7:波多野 翼(はたの つばさ)


31歳。営業職。

話が上手く、疑われずらい。

けど実は「自己保身の嘘」が多いタイプで伏線に使える。



■J(騎士)


●白森 海斗(しらもり かいと)


21歳。大学生で剣道部主将。

正義感が強く「誰かを守る」ため命を張るタイプ。

千春と相性が良いキャラ。



序章:闇に沈む廃墟


薄暗いコンクリートの床。天井から滴る水音。

凛が目を開けたとき、そこは病院とも学校ともつかない、

奇妙な廃墟のホールだった。


腕には、見知らぬ黒いブレスレットがはまっている。


ピ――ッ。

「参加者10名の覚醒を確認。

人狼ゲームを開始します。」


突然、天井のスクリーンが光り、機械音声が響く。

周囲では他の9人も目覚め、混乱していた。


「ふざけんなよ……誰の仕業だこれ!」

黒瀬が怒鳴り散らす。


「落ち着いて。まずは情報を整理しましょう。」

桜木楓が冷静に声を出す。


だが、スクリーンは続けた。


「この中には“人狼”が1名。

夜になると、廃墟内を徘徊し、

村人を1名、排除します。

朝になれば、議論により1名を処分してください。」


凛の背中を冷たいものが這った。

ここはただのゲームではない。


逃げ道はない。

信じる相手もいない。

廃墟は、まるで生き物のように彼らを飲み込んでいく。


そして、光が消えた。


――第1夜、開始。

廃墟全体が闇に沈み、どこか遠くで、

「カシャ…カシャ…」

と何かの骨が擦れるような足音が響いた。


凛は悟った。


この中に、人を殺す“何か”がいる——。



第1章:最初の朝 ― 疑心のはじまり


チーーン……。


遠くで金属が擦れるような音が鳴り、

廃墟のホールにわずかな灯りが戻った。


夜が明けた――。


凛は息を潜め、ゆっくりと目を開けた。

冷たい床の感触。乾いた血の匂い。

そして――悲鳴。


「いやあああああああっ!!!」


佐伯美沙が震える手で指さす先。

そこには、椅子に座らされたまま動かない男性の姿。


大河原 剛士。

逞しい体はそのまま、しかし胸元には黒い狼の刻印が焼き付いていた。


死んでいる。


「嘘……でしょ……昨日話したばっかりなのに……」


凪紗が崩れ落ち、すすり泣く。

葵は後ずさりしながら口元を押さえた。


影山玲於は、表情を変えず死体を見つめる。


「刻印の焦げ跡と、苦悶の表情……即死に近いな。

争った形跡もない。夜に連れ去られた……か。」


白森海斗は拳を握りしめ、歯を噛みしめた。


「……守れなかった。俺は、何してたんだよ……!」


凛は周囲を見渡す。

誰もが怯え、震え、疑い始めている。


そして機械音声が再び流れた。


『おはようございます。

昨夜、“人狼”により1名が排除されました。

議論ののち、投票によって1名を処分してください。』


宵宮灯葉が、ゆっくりと笑う。


「ねぇ、これってさ……

私たちの中に“殺した人”がいるってことだよね?」


その声は明るいのに、どこか冷たい。


葵が叫ぶ。


「そんなわけない!!

だってみんな普通の人よ!? 急に殺人なんて……!」


灯葉は首をかしげる。


「“普通の人”なら、ここに閉じ込められてないと思うけど?」


凛はその笑みに、嫌な温度を感じた。

まるで――楽しんでいる。


黒い影が、すでにこの場を侵食している。


海斗が前に出る。


「落ち着け!まずは情報を整理しよう。

互いを疑う前に、状況を――」


その瞬間、スクリーンに新たな文字が浮かんだ。


『処分は義務です。拒否権はありません。』


静寂。


凪紗の涙が床に落ち、響く。


三ツ矢連が小さく呟いた。


「……これ、ゲームじゃない。

誰かを選ばなきゃ、次の夜が来る。」


誰も言わなかったが――

全員、理解していた。


生き残るためには、誰かを殺す必要がある。


そして、最初に口を開いたのは波多野翼だった。


「じゃあさ、まず“疑わしいやつ”から決めようか。」


その笑顔は、妙に整っていて、妙に嘘くさい。


凛の背筋が冷えた。


――地獄の議論が、幕を開ける。



第2章:第1回会議 ― 疑心の座標


死体が運び出されたホールの中央。

錆びた丸テーブルを囲むように、10脚の椅子が並べられている。


全員が座り、沈黙だけが空気を支配していた。


最初に口火を切ったのは、影山玲於だった。


「まず、“人狼が誰か”を考えるより、

昨夜の行動確認から始めるべきだろう。」


その声は低く、冷静で、感情が読み取れない。


葵が眉をひそめる。


「でも……見張りをしたって証拠はないじゃない。

嘘ついても分からないし……」


「だからこそ、嘘をついた瞬間にほころびが出る。」


影山の視線は鋭く、全員の顔を順に刺した。


白森海斗が続ける。


「俺はホール近くの廊下で寝てた。

誰も通ってない。少なくとも、俺の前は」


凪紗は震える声で言った。


「わ、私はずっと泣いてて……

トイレに行った以外は部屋にいました……」


三ツ矢連がひと言。


「その“トイレ”、どこ?」


凪紗は答えられず視線を落とす。


疑いが浮かびかけた瞬間、

波多野翼が軽い声で割り込む。


「まあまあ、初日から吊る必要なくない?

まだ情報少ないしさ〜」


凛は違和感を覚えた。


(守りに入るのが早い……

自分が疑われる未来を想定してる声――)


そのとき、モデルの葵が髪をかき上げた。


「疑うならその子(凪紗)じゃない?

“泣いてた”なんて証明できないし」


空気が冷たくなる。


凪紗の目に涙が浮かぶ。


「わたし……人を傷つけたりしない……信じて……」


海斗が即座に庇う。


「泣いてる人を責めるのは違うだろ!」


「感情は判断材料にならないわ。」


影山の無機質な声。


沈黙。呼吸すら痛い。


そして――


灯葉が笑った。


「ねえ、気づいた?

ここって、“優しい人から死んでく”場所なんだよ?」


背筋が凍る。


言葉ではなく、空気が狂い始めた。



第3章:灯葉 ― 微笑む狂気


会議が続く中、灯葉は一度も席を立たず、

ただ全員を観察していた。


その笑みは可愛らしいのに――

どこか“獲物を見ている”。


「美沙ちゃん」


唐突に名指し。


「さっき、死体見つけた時……

一番最初に叫んだよね?」


美沙の肩が震える。


「こ、怖かったからで……!」


灯葉は優しく微笑む。


「怖いのに“遺体に近づけた”のはなんで?」


「…………」


「知ってたんじゃない?

あの人が死んでるって。」


空気が凍りつく。


美沙の呼吸が荒くなる。


「ちがっ……私は……!」


灯葉は囁くように続けた。


「ねえ、信じるよ?

“もし犯人でも”」


その優しさは、刃。


凛は悟った。


(狂人――この子だ)


議論を乱し、崩し、楽しんでいる。


そして、灯葉はさらに微笑む。


「ねえ、この中で一番“死にそうな人”……

誰だと思う?」


それは、遊戯ではなく――宣告。



第4章:夜 ― 鷹斗の獣化


夜。

廃墟の照明が落ち、黒い闇が支配する。


九頭鷹斗は、一人で廃棄された教室にいた。


「……クソ、また来るのか」


黒いブレスレットが脈打つ。

血管のように、黒い影が腕を這い上がる。


呼吸が荒くなる。

骨が軋み、背中が盛り上がる。


「やめろ……俺は……人を……ッ」


視界が赤く染まった。


床に爪が食い込む。

牙が伸び、影が形を変える。


“ガリ……ガリッ……”


人ではない咀嚼音。


理性が溶け、獣が生まれる。


――走れ。

――喰らえ。

――今夜も一人。


彼は覚えていない。


ただ、血の匂いだけを。


しかしその夜――

鷹斗は狩らなかった。


理由は分からない。

ただ、廃墟の奥で、誰かの気配が立っていた。


人狼ではない“何か”の。



第5章:凛の推理開始 ― 静かな戦場


朝。


死亡者ゼロの報告に、全員がどよめいた。


「……人狼、襲わなかった?」


「そんなわけ――」


凛は思考を巡らせる。


(可能性は3つ)


① 人狼が誤って動けなかった

② 守られた(騎士が成功)

③ 人狼が、わざと動かなかった


凛の胸がざわつく。


(3番が一番最悪……

“疑心を育てるために生かす”)


凛は議論前に全員の表情を観察した。


海斗 →安堵

凪紗 →涙目のまま

影山 →無表情

連 →笑ってるが目が笑ってない

葵 →化粧を直してる

翼 →過剰に明るい

美沙 →震えてる

灯葉 →観察してる

鷹斗 →目が赤い


(この中に、確実に“嘘”がある)


凛は心の中で呟いた。


――私は騙されない。



第6章:投票 ― たった一票の重さ


議論は荒れに荒れた。


「葵が怪しい!」

「いや、翼だろ!」

「泣いてるだけじゃ信じられない!」


怒号、涙、沈黙。


そして、投票の時間が来る。


スクリーンに白い文字。


『1名を選択してください。』


ペンが震える音が響く。


順番に電子投票箱へ。


凛は迷わず記入する。


(あなたしかいない――)


全員が席につく。


『最多票は――』


固唾を飲む。


『――佐伯 美沙』


美沙の顔から血の気が消える。


「え……なんで……?

わ、私……何も……」


灯葉が優しく微笑む。


「大丈夫。すぐ楽になるよ?」


その声が、地獄より冷たい。


美沙は震える膝で立ち上がり、問う。


「ねえ、誰か……信じてくれた?」


凪紗が泣き叫ぶ。


「ごめん、ごめん、ごめん……!!」


白森海斗は拳を握り、歯を軋ませた。


凛は立ち上がれなかった。


美沙が処刑室へ導かれる寸前、振り返る。


「生きて……お願い……」


扉が閉まる。


乾いた音――


終わった。


スクリーンが告げる。


『佐伯美沙は――村人でした』


悲鳴が、ホールを満たした。


そして凛は確信した。


このゲーム、全員殺す気だ。



第7章:罪悪感の夜


夜が訪れた瞬間、廃墟は再び黒い霧に包まれた。


凛は、小さな共同部屋の片隅で膝を抱えていた。

昼間、最初に吊られたのは――佐伯美沙だった。


泣きながら否定していた少女の顔が、まだ脳裏に焼き付いて離れない。


(……私が、あの子を追いこんだ)


自分の発言が多数派を作ったと分かっている。

が、誰も慰めてはくれない。

罪悪感は、誰にも分けられない重さだ。


「凛、大丈夫か?」


扉の向こうで海斗が声をかける。


「……大丈夫なわけないよ」


凛の声は震えていた。


海斗は入ってこない。ただ立ち尽くす。

それが逆に優しさだと分かる。


遠くで――

「ガリ……ガリ……ガリ……」


壁を引っ掻く不気味な音がする。


誰かが泣き、誰かが祈り、誰かが眠れない夜を過ごしていた。


罪悪感は、人狼より静かに人を蝕む。



第8章:狂人・灯葉の“本性”


朝。死人は出なかった。


安堵が部屋を包む――その瞬間。


「よかったねぇ、”今夜は”誰も死ななくて。」


灯葉が、にっこり笑った。

その笑顔は昨日とは違う。目だけが笑っていない。


「ねぇ凛ちゃん。美沙ちゃん吊ったの、後悔してる?」


嫌味じゃない。

興味本位。

人の心を解剖するような声。


「やめろよ、灯葉」


剛士が低く警告する。


しかし灯葉は止まらない。


「ねぇ、凛ちゃん。

本当に美沙ちゃん、”人狼だった”って思ってる?」


凛の心臓が跳ねる。

昨日の自信が、一瞬で崩れる。


灯葉はさらに囁く。


「後悔するくらいなら、最初から発言しなきゃよかったのに。」


空気が凍る。


彼女は狂人。

混乱を楽しむ怪物。


「……可愛いなぁ、人間の罪って。」


灯葉は笑った。

それはゲームじゃなく――“狩り”の笑顔だった。



第9章:鷹斗の正義と獣の葛藤


深夜。


薄暗い廊下で、鷹斗はひとり壁にもたれていた。

胸が苦しい。呼吸が荒い。


「く……あぁ……また来る……っ」


ブレスレットから黒い煙のようなものが滲み、

腕に這い上がっていく。


骨が軋み、視界が揺れる。


(殺せ――)


低い、獣の声が頭に響く。


(違う……俺は、人を守るために――)


しかし正義の記憶が、過去の”過ち”と混ざり合う。


——あの日、犯人を追いつめるために

法律を、正義を、踏み越えた。


それ以来、鷹斗は自分を許せない。


(俺は……もう、人を救えないのか……)


指先が爪のように伸びる。

瞳が獣の金色に染まる。


そのとき、足音。


「九頭さん?大丈夫ですか?」


影山玲於が現れる。


鷹斗は必死に顔をそむける。


「来るな……ッ!」


声が獣の唸りに変わりかけていた。


影山は気づく。

だが言わない。

ただ静かに去った。


(正義ってなんだ――俺は、何なんだ)


廃墟の闇だけが答えを持っていた。



第10章:凛と影山、最初の衝突


第3回会議。


凛は震えながらも意見を述べる。


「昨日、死者が出なかったのは……

騎士が守った可能性が高いと思う。」


しかし影山が冷ややかに切り捨てる。


「その推理、根拠は?」


「……状況証拠だけど」


「状況証拠は、間違うために存在する。」


凛は拳を握る。


「間違っても、考えなきゃいけないでしょ。

誰かが死ぬ前に。」


影山の目が細くなる。


「人を吊る覚悟があるならな。」


空気が張り詰めた。


皆の視線が集まる。


凛は食い下がる。


「あなたはいつも俯瞰してるだけ。

自分は傷つかない場所から見てる。」


影山は笑う。


「正解だよ。

このゲームで感情は邪魔だから。」


ふたりの間に深い溝が生まれた。


それは後に――

重大な伏線となる。



第11章:次の犠牲者


夜。


廃墟の非常灯が赤く点滅する。


「ギ……ギギギ……」


金属が削れるような音。


誰かが走る足音。

誰かが叫ぶ声。


そして――


翌朝。


ホール中央にひとりの遺体。


大河原剛士。


分厚い体が倒れ、胸には深い裂傷。


泣き声が響く。


凛は膝から崩れ落ちた。


守る人だった剛士が、最初に殺された。


灯葉は笑っていない。

影山は表情を失った。


そして、海斗は拳を震わせる。


「あいつは……俺たちを守ろうとしてたんだ」


廃墟は静かに宣告する。


――もう誰も、安全じゃない。


物語は狂い始める。



第12章:嘘と告白の応酬


剛士の死を告げるサイレンが止むと同時に、会議は始まった。


「昨夜どこにいた?」


影山が静かに問い、全員の視線が泳ぐ。


「私、葵さんと一緒だったよね?」

凛が確認するように言う。


だが、姫路葵は薄く笑った。


「え?ごめん、そんな約束してたっけ?」


空気が凍る。


(嘘……ついてる)

凛は直感した。


続いて翼が手を挙げる。


「俺は……凛ちゃんを疑ってる。

あの子、最初の吊りで主導権握ってたよな?」


「ちょっと待って!」

海斗が割って入る。


「凛は剛士さんの死を悲しんでた。

あんな反応、狼ができるか?」


「演技だとしたら?」

影山の言葉は鋭い刃だった。


その瞬間、灯葉が笑いながら呟く。


「ねぇ、正直に言えば?

誰も信じてないくせに、守り合ってるフリ。」


その言葉で、全員が口を閉ざした。


ここは告白すれば死ぬ場所。

だが、黙れば疑われる場所。


生き残りたい嘘と、信じたい叫びが交錯し――

会議は破綻寸前だった。



第13章:疑心暗鬼ピーク


その夜、廃墟全体が異様に静かだった。


凛は自分の寝室から出られずにいた。

眠れば、次に目を開けた時、自分が死体になる気がした。


(誰を信じればいいの……?)


扉の向こうでは足音。

誰かが近づき、また遠ざかる。


――カシャ。


金属が擦れる音が廊下から聞こえた。


息を飲む。


(来た……人狼……?)


しかし数秒後、声がした。


「……凛。開けてくれ。」


影山。


凛は躊躇する。


(騙されてる可能性がある……)


でも、彼の声は本気だった。


「このままじゃ……全員、狂う。」


ドア越しに聞こえる震え。


凛はゆっくり答えた。


「今は……信じられない。」


沈黙。


影山は何も言わず、立ち去った。


だがその背中を――

灯葉が、暗闇で見ていた。


にたり、と。


疑心暗鬼は人間を獣に変える。

その夜、誰も眠れなかった。



第14章:凛の覚醒


翌朝。死者は――“また”いなかった。


奇跡的な結果に、皆が安堵する。


だが凛だけは違った。


(いや……これはおかしい)


人狼は毎晩殺すしか勝ち目がない。

なのに、2回連続でスキップ?


そこに意図がある。


凛は深く息を吸い、会議で言い放つ。


「ねぇ、人狼……まだ『疑心暗鬼の加速』を楽しんでるだけじゃない?」


全員が凛を見る。


「本当に殺したいのは“人”じゃなくて、

この信頼そのものなんじゃない?」


その言葉に、灯葉の笑みがピクリと引きつる。


(図星――)


凛は続ける。


「だから私は、今日“吊らない”。

議論する。考える。逃げずに。」


影山が目を細める。


「覚悟を決めたんだな。」


凛は頷いた。


「犠牲者を出す前に、この地獄を終わらせる。」


少女は、ただ泣くだけの被害者ではなかった。

ここで、主人公になった。



第15章:鷹斗の限界


その夜。


廃墟の非常灯がチカチカと点滅する。


鷹斗はひざまずき、喉を押さえながら苦しんでいた。


「もう……抑えられない……ッ」


黒い影が肩から胸へ、そして首へ侵食する。


(殺せ。殺せ。殺せ。)


脳内で獣が爪を立てる。


「やめろ……俺は……!」


だが視界が赤に染まり、爪は鋭く伸び、

牙がのぞく。


――バン!


海斗が部屋へ飛び込む。


「九頭さんッ!」


その瞬間、鷹斗は獣のまま海斗を押し倒す。


唸り声。涙。呼吸が荒い。


「逃げろ……海斗……俺は……人じゃない……!」


海斗は首を絞められながらも叫ぶ。


「違う!あんたは人だ!まだ戻れる!」


その声が、獣の中の人間へ届いた。


鷹斗は、自分の手を引きはがし――

壁を殴りつけた。


「ぐ……あああああああッ!!」


血が広がる。


彼はまだ戦っている。

正義と、罪と、自分自身と。


限界まで。



第16章:灯葉の最終計画


朝。


ホール中央のモニターが突然点灯した。


《ゲーム進行が遅すぎます。

次の夜、”特別処理”を行います。》


プレイヤー全員が青ざめる。


「どういう意味だよ……」翼が呟く。


そこへ――灯葉が手を叩いた。


「やっと来たね。私の待ってた展開。」


笑顔。けれど冷たい。


「このゲームの勝利条件、勘違いしてるよみんな。」


灯葉は一歩前へ出た。


「私は人狼の味方なんじゃなくて――

崩壊の味方なんだよ。」


空気が凍る。


「だってさ、誰が勝つかなんてどうでもいいじゃん?

大事なのは、心が壊れる瞬間。」


凛は震えながら言う。


「……あなた、人間じゃない。」


灯葉は嬉しそうに笑った。


「気づくの遅いよ、凛ちゃん。」


次の瞬間、非常灯がすべて消え――


廃墟が闇に飲まれた。


灯葉の囁きだけが響く。


「さぁ、ラストナイトしよ?」


地獄の終焉が始まる。



第17章:凛 vs 影山の連携


非常灯が復旧し、薄暗いホールに全員が集まった。


灯葉はいない。


凛は深呼吸し、影山を見る。


「……ねぇ、協力して。」


影山の眉がわずかに動く。


「疑ってたんじゃなかったのか?」


「うん。でも今は、疑うより動く方が大事。」


影山は数秒沈黙し、息を吐く。


「情報を出す。俺は昨夜、灯葉を尾行した。」


全員が息を飲む。


「彼女は……監視カメラの裏通路に消えた。」


凛は即座に地図を広げる。


「そこ、管理室につながってる……

つまり、灯葉はゲームの“ルールに触れられる”。」


「操ってる、ってことか?」翼が青ざめる。


影山が静かに言う。


「いや、違う。遊んでる。」


凛は震える声で続ける。


「だから私たちは、灯葉を追い詰めなきゃいけない。

でも……正面からじゃ勝てない。」


影山が凛に歩み寄る。


「指示しろ。お前の推理、信じる。」


全員が驚く。


凛は唇をかみ、はっきり言う。


「このゲームを終わらせるのは、私と影山さん。

2人でやる。」


影山が手を差し出す。


「生き延びるためじゃない。

“真実”のために。」


凛はその手を握った。


最強のタッグが生まれた瞬間だった。



第18章:鷹斗の選択(人か獣か)


夜。


廃墟を引き裂くような叫びが響いた。


「もう……やめろ……!」


鷹斗の身体は半分が黒い影に染まり、爪は鋭く伸びていた。


凛と影山が駆け寄ると――

海斗が倒れていた。


「違う……俺は襲ってない……ッ」


鷹斗は苦悶しながら叫ぶ。


凛は必死に言う。


「九頭さん!人間のあなたを見た!

あなたは弱い人を守ろうとしてた!」


「俺は……罪人だ……!」


「罪を悔やむ人が、本物の人間なんだよ!」


影山が拳を握りしめ、近づく。


「獣でいた方が楽なんだろうな。

でも、それを拒絶し続けるのが“正義”だろ。」


鷹斗の目が揺れる。


獣の赤ではなく、人の色へ。


「……守らせてくれ。

最後まで、人として。」


影山が頷く。


「なら立て。俺たちの味方でいろ。」


鷹斗は震えながらも立ち上がった。


人間として。



第19章:灯葉の正体と動機


管理室。


灯葉は椅子に座り、モニターに映る参加者たちを眺めていた。


凛たちが入ってくると、彼女はくるりと振り向く。


「わぁ、来てくれた。待ってたよ。」


影山が銃を構える。


「お前は何者だ?」


灯葉は無邪気な笑顔で答える。


「ただの“退屈な女の子”。

ねぇ、生きてるって実感、ある?」


凛が震えながら問う。


「人を苦しめて、追い詰めて……

それで満たされるの?」


灯葉は首を傾げる。


「普通に大学行って、笑って、恋して、友達と遊んで……

そんな人生、つまんなくない?」


目が虚ろだった。


「だったら壊した方が面白いじゃん。

心が悲鳴をあげる瞬間、

人間って最高に美しい。」


狂気。それも演技ではない。


凛は涙をこぼしながら言う。


「……あなた、本当は……孤独なんだね。」


灯葉の表情が初めて曇った。


「やめてよ。そんな目で見ないで。」


影山が動こうとした瞬間――


アラームが鳴り響く。


《最終投票まで、あと10分》


灯葉は笑い直す。


「さぁ、ラストゲームだよ。」



第20章:最終投票


ホール中央。


重苦しい空気の中、10の赤いボタンが置かれていた。


【一番疑わしい者へ投票せよ】


凛の心臓はうるさいほど鳴っていた。


影山が囁く。


「大丈夫だ。俺がいる。」


海斗が凛の肩に優しく触れる。


「信じてる。」


葵が泣きながら言う。


「お願い……生きて……」


灯葉だけが笑っていた。


「さぁ、誰を殺す?」


一人、また一人――

ボタンを押していく。


凛の番になった。


(信じるって、怖い)


でも――


(それでも私は、信じたい)


凛は迷わず押した。


「灯葉。」


最後の一票が投じられた瞬間――


モニターが光る。


《最多票:宵宮灯葉》


灯葉は目を閉じ、微笑んだ。


「さすがだね、凛ちゃん。」


処刑用の扉が開く。


だが灯葉は振り返り、言い残した。


「でもさ――

終わったと思ってる?」


不吉な余韻を残し、闇へ消えた。



第21章:ゲームの先へ


廃墟の扉が開き、眩しい朝日が差し込む。


生き残った人数は――数名。


凛は外へ踏み出し、青空を見上げる。


涙が溢れた。


「終わったんだ……!」


影山が隣で小さく笑う。


「生きたな。」


鷹斗がゆっくり歩み寄り、深く頭を下げる。


「ありがとう。俺を、人に戻してくれて。」


海斗が空を見ながら呟く。


「帰ろう。みんなの場所へ。」


凛は温かい風を感じた。


けれど、その足元に――黒いブレスレットが落ちていた。


画面が暗転し、文字が浮かぶ。

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