第5話 幕間
時間不明 ある邸宅の一室
「――様」
呼びかける声に振り向いたのは、金髪の偉丈夫だった。
均整のとれた肉体に相応しい、低くよく通る声で答える。
「どうした、同志よ」
同志と呼ばれたのは、六十代に差しかかろうかという男だった。
鷲鼻、太い眉、大きく釣り上がった目。傲慢そうな容貌に似つかわしくない丁寧な所作で、彼は主人に恭しく告げた。
「監視対象454のことでございます」
「監視対象454……ああ、例の件の彼女か。それがどうした」
「ここ三日間、行動に異変が見られます。そのことについて――」
「回りくどいな、同志。直裁に申せ」
「どうやら対象が問題に気づいたらしく、対処を検討しています」
「対処。具体的には?」
「自己による修正。できなければ、外部への修正委託を検討しています」
主人の顔が歪んだ。
実行まで、あと三日。
この計画には二年を費やしている。成果は計り知れない。何より優先すべきは、計画の実行だ。
「妨害できる可能性は?」
「出来うる限りの妨害は行いましたが、持ってあと一日です」
「計画に邪魔が入るか……致し方ない。454は処分せよ。できるだけ事故に見せかけてな」
「そのことですが」
同志は一瞬だけ言葉を選ぶように間を置いた。
「実行部隊より、例の件の“実験”をやってみたいと申し出がありまして」
主人は口角を片側だけ引き上げた。
「なるほど。理にかなっているな」
そして、冷静に続ける。
「問題は、実行に支障が出ないかどうかだが……」
同志の表情がわずかに曇る。
「部隊長は問題ないと申しておりますが……」
「同志は、そうではないと?」
「いえ。ただ、露見する可能性は一%でも低い方がよろしいかと。
実行時の成功率と、どちらを高く見積もるべきか判断いたしかね――伺いに参った次第です」
主人は顎に手を当て、宙を見た。
「同志の言い分はもっともだ。だが、現場の士気を高めるためにも、現場の意見は拾ってやる方がいい」
間を置き、結論だけを落とす。
「もしものことがあっても、部隊で対応するとの確約を取った上で――実行を許可せよ」
「はっ。承知しました」
同志が部屋を去る。
扉が閉まり、沈黙が戻った。
主人はしばらく扉を眺めてから椅子に座り直し、眩しい太陽を見上げた。
「何事も――すべては、我が覇道のために」
太陽を掴み取るように手を伸ばし、ぐっと握りしめる。
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