番外編1 ユズリハの木

※番外編です。アイリが消える前のお話になります。

 自作の「物語創作システム」を使用しています。


1.

 夏の朝だった。

 古い公園。大きな木が一本、立っている。

 幹が太く、枝が広い。でも、葉が少ない。


「わあ、大きい木!」


 アイリが見上げる。


「 …枯れかけてる」


 ツキヨミが言う。


「伐採予定の札が貼ってある」


 木の根元に、小さな札。


「さみしいね」


 アイリが木に触れる。


 その時、木が薄く青い光を放った。


2.

 木の根元に、誰かがいた。

 小さな女の子。10歳くらい。半透明。

 髪に、緑の葉を編み込んでいる。


「あ、見える!」


 アイリが駆け寄る。


「君も、消えないの?」


「 …私は、精霊」


 女の子が答える。


「この木の、精霊」


「わあ! 精霊!」


 アイリが目を輝かせる。


「名前は?」


「ユズリハ」


3.

 ユズリハが木を見上げる。


「この木が、もうすぐ死ぬ」


 静かに言う。


「 …知ってるんだ」


 ツキヨミが聞く。


「うん。感じる」


 ユズリハが頷く。


「木が枯れたら、私も消える」


「どうして?」


 アイリが聞く。


「私と木は、一緒だから」


 ユズリハが答える。


「木が生きている間、私も生きる」


「木が死んだら、私も死ぬ」


「 …共生の契約」


 ツキヨミが呟く。


5.

「いつから、そうなの?」


 アイリが聞く。


「300年前」


 ユズリハが微笑む。


「この木が植えられた時、契約した」


「『ずっと一緒にいよう』って」


「でも …」


 ユズリハが木に手を置く。


「木は、もう疲れてる」


「枯れたがってる」


「でも、私が生きたいから、木も生きようとしてる」


6.

「 …苦しい?」


 ツキヨミが聞く。


「うん」


 ユズリハが頷く。


「木も、私も」


「でも、どうすればいいかわからない」


 アイリがユズリハの手を取る。


「怖いの? 消えるの?」


「 …うん」


 ユズリハが小さく答える。


「でも、木を苦しめたくない」


「だから、もういいって思うときもある」


「でも、やっぱり怖い」


7.

 ツキヨミが木に触れた。

 薄い青い光。

 これは、木からではない。

 契約から出ている。


「 …共生の契約が、執着になってる」


 ツキヨミが言う。


「これを消したら、どうなるの?」


 ユズリハが聞く。


「 …多分」


 ツキヨミが答える。


「木が死んでも、ユズリハは消えない」


「本当!?」


 アイリが飛び跳ねる。


「 …でも」


 ユズリハが迷う。


「木と、離れちゃう」


8.

「ねえ、木は何て言ってるの?」


 アイリが聞く。


 ユズリハが木に耳を当てる。


「 …『もう、いい』って」


「『ユズリハは、自由になって』って」


 ユズリハの目に涙が浮かぶ。


「でも、私 …」


「 …木は、優しいね」


 ツキヨミが言う。


「ユズリハのこと、大切にしてる」


「だから、苦しくても生きてた」


9.

 ユズリハが決めた。


「 …お願いします」


「契約を、消してください」


 ツキヨミが傘を開く。

 木の幹に、傘をかざす。


「 …さようなら」


 ユズリハが木に手を置く。


「ありがとう」


 青い光が消えていく。

 契約が、解ける。


 木が、ゆっくりと息をついたように見えた。


10.

 数日後。

 木は伐採された。

 切り株だけが残っている。


 でも、ユズリハはいた。

 切り株の上に座って、空を見上げている。


「消えなかった!」


 アイリが嬉しそうに言う。


「うん」


 ユズリハが笑う。


「自由になった」


「これから、どうするの?」


「 …わからない」


 ユズリハが首を傾げる。


「でも、楽しみ」


11.

「ねえ、一緒に来る?」


 アイリが聞く。


「いいの?」


「うん! ツキヨミもいいよね?」


 アイリがツキヨミを見る。


「 …いいよ」


 ツキヨミが小さく笑う。


「でも、時々だけ」


 ユズリハが立ち上がる。


「ありがとう!」


 三人が歩き出す。

 夏の光。

 切り株から、小さな新芽が出ていた。


 命は、続いていく。


おわり

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