第3話『真の敵は神の使徒=ルシ』
草原の風は、いつもより冷たかった。
俺は深呼吸し、マリエッタ、リリア、ルルと肩を並べた。
今日はスライム狩りの予定だったのに、どうやらまた世界が俺を放っておかないらしい。
「――来たわね」
空の端、太陽が少し陰る。
黒い光の柱が地面を貫き、地面が震える。
その中心から、漆黒のマントを翻す男が現れた。
肩には神の紋章。目は冷たい氷のように光っている。
「……ルシ」
リリアの声が小さく震えた。
ルシはかつての神の使徒――転生世界に何度も災厄をもたらした存在だ。
「……なんで今回の転生に限って来るんだよ。俺、ノービスだぞ。今日もスライム狩りするだけなんだよ!」
俺の声が届くはずもなく、一体のルシは一歩ずつ近づいてくる。
「……ノービスでも構わぬ。我が神の意志に背く者は、転生者であろうと討たねばならぬ」
マリエッタが前に出た。
「イツキ様! 立ち位置を変えませんわ!」
だがその目は、戸惑いと恐怖が混ざっていた。
リリアも弓を構え、ルルは闇色の魔力を纏う。
「……みんな、俺ノービスなんだけど、どうして……!」
だけど俺の声は、彼女たちの心を落ち着かせる力があったらしい。
◆
ルシはゆっくり歩きながら、俺たちを見下ろす。
「……転生を繰り返す者よ。お前の魂は、神の計画に干渉しすぎた」
ルルが前に出る。
「……神の計画? あなたに何がわかるというの?」
「わかる。お前たちの絆と、そして恐れ。転生者の重荷に頼る弱き者ども」
マリエッタの手が震える。
リリアは矢を握りしめ、目を伏せたまま言う。
「……怖い……でも、イツキと一緒なら……」
俺はその手をそっと握る。
「大丈夫。ノービスだけど、今日はみんなと一緒だ」
少しだけ、みんなの肩の力が抜ける。
◆
ルシは拳を上げる。
地面に光の輪が広がり、全員を包み込む。
「この世に抗う者は――滅びるのみ」
しかし俺は、ノービスの身体で前に一歩出る。
「抗う……抗わなくてもいいけど、逃げるわけにもいかない。
だから、俺は……俺たちと一緒に進む」
ルルが微笑み、マリエッタも頷く。
リリアの弓が空を裂く。
――ノービスでも、弱くても、絆があれば立てる。
◆
ルシの魔力の波が迫る。
だが俺は覚悟を決めた。
「……みんな、俺は逃げない! 俺も前に出る」
小さな一歩が、やがて全員を守る一歩になる。
草原の風が、温かく変わった。
――今日、ノービスは初めて「世界を守る」重荷を、受け入れる。
◆
ルシの瞳が光る。
「……なるほど、転生者よ。弱くとも、魂が強い……」
その瞬間、戦いの前に、小さな信頼と絆が生まれた。
◆『ノービス、神の使徒ルシとの戦い』
草原に黒い光の柱が突き刺さる。
ルシは静かに立っていた。神の力を帯びた漆黒のマントが風に翻る。
「……転生者よ、これ以上の抵抗は無意味だ」
俺は棒切れ一本――ノービス装備で立つ。
心臓がドキドキしているが、目の前の敵は、単なる強敵ではなく、全世界を脅かす存在だ。
「無意味かもしれない……けど、俺は――俺たちは、逃げない」
ルルがそっと手を握る。
マリエッタとリリアも、背中を預けるように並ぶ。
◆
ルシが一歩踏み出した瞬間、空気が裂けた。
周囲の草が逆風に吹き飛ばされる。
「――第一撃」
ルシの手から放たれた光の矢は、ただの弾丸ではなく、魔力の塊だった。
しかし俺の身体は、反射的に横に滑った。
(くっ……やっぱり、身体が覚えてる……!)
棒を振ると、地面に反射魔力を跳ね返す。
ノービスの身でも、過去の戦闘経験が勝手に導く動きが出てしまう。
ルシは眉をひそめた。
「……転生者よ、なぜそのような動きができる。弱者のはず……」
「弱いのはステータスだけだ。魂の経験は、消せないんだよ」
◆
ルシの連撃は止まらない。
光弾、斬撃、魔力の波――全てが正確で、避けないと即死級。
俺は避けながら、仲間の顔をチラリと見る。
マリエッタは剣を構えて、影から支援魔法を飛ばす。
リリアは弓でルシの魔力の流れを封じようとする。
ルルは魔力で遮断し、俺を守る盾となる。
(……みんな、俺のために必死だ……!)
その想いが、俺の手に力を与える。
棒を握る指先に、かすかに熱が伝わる。
◆
ルシの攻撃が、地面を割った。
砂塵が巻き上がる中、俺は低く身をかがめ、棒で一瞬の隙間を突く。
棒が空を切る。
しかしその動きが、ルシの防御の癖を読んでいた。
カツッ、と金属音。
ルシが微かに足を止める。
「……!? まさか、ノービスの動きで……」
「俺は弱い……でも、学んだことは、忘れない」
棒を振ると、ルシの足元をかすめて魔力の流れを乱す。
それだけで、攻撃のタイミングに小さな隙間が生まれた。
◆
ルルが低く呟く。
「……イツキ、信じていいのよ。弱くても、あなたの魂は強い」
マリエッタも、リリアも頷く。
俺は深呼吸し、棒を握り直す。
「……なら、行く!」
棒を地面に叩きつけると、地面の魔力が揺れた。
跳ね上がった土塊がルシにぶつかり、視界を一瞬遮る。
その瞬間、俺は走る。
ノービスの身体が、6億周回の動きを無意識に再現する。
ルシの前で低く滑り、横に回り込み、棒を素早く振る。
魔力をまとった棒は、完全な攻撃ではない。だがルシの防御のリズムを崩すには十分だった。
◆
ルシは驚き、攻撃を止める。
「……転生者よ、これは……人間の“弱さ”ではなく、“経験”か」
「そうだよ。弱くても、仲間がいれば戦える」
ルルが手を差し伸べ、マリエッタとリリアも肩を寄せる。
四人の信頼が、ノービスの俺を支えた。
――弱さを認め合うことで、力が生まれる瞬間だった。
ルシは一歩下がり、静かに言った。
「……わかった。転生者よ、今回だけは、力を見せてもらった」
黒い光が収束し、攻撃が止む。
俺は息を整え、棒を握り直す。
「……ノービスだけど、俺は今日も生き延びた」
ルルが笑う。
「……やっぱり、あなたは特別ね」
マリエッタも、リリアも、そっと微笑む。
――ノービスの戦闘は、終わった。
でも、これからも人間ドラマは続く。
魂と絆の試練は、まだ終わらないのだ。
『ノービスだけど、スキルが鋭すぎる件』異世界ダンジョンクリアは6億と1回目なのでノービスでソロプレイするつもりなのに、かつてのヒロインたちが邪魔してきます 空花凪紗~永劫涅槃=虚空の先へ~ @Arkasha
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