第3話『真の敵は神の使徒=ルシ』

 草原の風は、いつもより冷たかった。


 俺は深呼吸し、マリエッタ、リリア、ルルと肩を並べた。

 今日はスライム狩りの予定だったのに、どうやらまた世界が俺を放っておかないらしい。


「――来たわね」


 空の端、太陽が少し陰る。

 黒い光の柱が地面を貫き、地面が震える。


 その中心から、漆黒のマントを翻す男が現れた。

 肩には神の紋章。目は冷たい氷のように光っている。


「……ルシ」


 リリアの声が小さく震えた。

 ルシはかつての神の使徒――転生世界に何度も災厄をもたらした存在だ。


「……なんで今回の転生に限って来るんだよ。俺、ノービスだぞ。今日もスライム狩りするだけなんだよ!」


 俺の声が届くはずもなく、一体のルシは一歩ずつ近づいてくる。


「……ノービスでも構わぬ。我が神の意志に背く者は、転生者であろうと討たねばならぬ」


 マリエッタが前に出た。


「イツキ様! 立ち位置を変えませんわ!」


だがその目は、戸惑いと恐怖が混ざっていた。


 リリアも弓を構え、ルルは闇色の魔力を纏う。


「……みんな、俺ノービスなんだけど、どうして……!」


 だけど俺の声は、彼女たちの心を落ち着かせる力があったらしい。


 


 

 ルシはゆっくり歩きながら、俺たちを見下ろす。


「……転生を繰り返す者よ。お前の魂は、神の計画に干渉しすぎた」


 ルルが前に出る。


「……神の計画? あなたに何がわかるというの?」


「わかる。お前たちの絆と、そして恐れ。転生者の重荷に頼る弱き者ども」


 マリエッタの手が震える。

 リリアは矢を握りしめ、目を伏せたまま言う。


「……怖い……でも、イツキと一緒なら……」


 俺はその手をそっと握る。


「大丈夫。ノービスだけど、今日はみんなと一緒だ」


 少しだけ、みんなの肩の力が抜ける。

 




 ルシは拳を上げる。

 地面に光の輪が広がり、全員を包み込む。


「この世に抗う者は――滅びるのみ」


 しかし俺は、ノービスの身体で前に一歩出る。


「抗う……抗わなくてもいいけど、逃げるわけにもいかない。

 だから、俺は……俺たちと一緒に進む」


 ルルが微笑み、マリエッタも頷く。

 リリアの弓が空を裂く。


 ――ノービスでも、弱くても、絆があれば立てる。




 ルシの魔力の波が迫る。

 だが俺は覚悟を決めた。


「……みんな、俺は逃げない! 俺も前に出る」


 小さな一歩が、やがて全員を守る一歩になる。


 草原の風が、温かく変わった。


 ――今日、ノービスは初めて「世界を守る」重荷を、受け入れる。


 

 


 ルシの瞳が光る。


「……なるほど、転生者よ。弱くとも、魂が強い……」


 その瞬間、戦いの前に、小さな信頼と絆が生まれた。


◆『ノービス、神の使徒ルシとの戦い』


 草原に黒い光の柱が突き刺さる。

 ルシは静かに立っていた。神の力を帯びた漆黒のマントが風に翻る。


「……転生者よ、これ以上の抵抗は無意味だ」


 俺は棒切れ一本――ノービス装備で立つ。

 心臓がドキドキしているが、目の前の敵は、単なる強敵ではなく、全世界を脅かす存在だ。


「無意味かもしれない……けど、俺は――俺たちは、逃げない」


 ルルがそっと手を握る。

 マリエッタとリリアも、背中を預けるように並ぶ。



 


 ルシが一歩踏み出した瞬間、空気が裂けた。

 周囲の草が逆風に吹き飛ばされる。


「――第一撃」


 ルシの手から放たれた光の矢は、ただの弾丸ではなく、魔力の塊だった。

 しかし俺の身体は、反射的に横に滑った。


(くっ……やっぱり、身体が覚えてる……!)


 棒を振ると、地面に反射魔力を跳ね返す。

 ノービスの身でも、過去の戦闘経験が勝手に導く動きが出てしまう。


 ルシは眉をひそめた。


「……転生者よ、なぜそのような動きができる。弱者のはず……」

「弱いのはステータスだけだ。魂の経験は、消せないんだよ」



 ルシの連撃は止まらない。

 光弾、斬撃、魔力の波――全てが正確で、避けないと即死級。


 俺は避けながら、仲間の顔をチラリと見る。


 マリエッタは剣を構えて、影から支援魔法を飛ばす。

 リリアは弓でルシの魔力の流れを封じようとする。

 ルルは魔力で遮断し、俺を守る盾となる。


(……みんな、俺のために必死だ……!)


 その想いが、俺の手に力を与える。

 棒を握る指先に、かすかに熱が伝わる。


 



 


 ルシの攻撃が、地面を割った。

 砂塵が巻き上がる中、俺は低く身をかがめ、棒で一瞬の隙間を突く。


 棒が空を切る。

 しかしその動きが、ルシの防御の癖を読んでいた。


 カツッ、と金属音。

 ルシが微かに足を止める。


「……!? まさか、ノービスの動きで……」

「俺は弱い……でも、学んだことは、忘れない」


 棒を振ると、ルシの足元をかすめて魔力の流れを乱す。

 それだけで、攻撃のタイミングに小さな隙間が生まれた。

 


 ルルが低く呟く。


「……イツキ、信じていいのよ。弱くても、あなたの魂は強い」


 マリエッタも、リリアも頷く。


 俺は深呼吸し、棒を握り直す。


「……なら、行く!」


 棒を地面に叩きつけると、地面の魔力が揺れた。

 跳ね上がった土塊がルシにぶつかり、視界を一瞬遮る。


 その瞬間、俺は走る。

 ノービスの身体が、6億周回の動きを無意識に再現する。


 ルシの前で低く滑り、横に回り込み、棒を素早く振る。

 魔力をまとった棒は、完全な攻撃ではない。だがルシの防御のリズムを崩すには十分だった。


 



 ルシは驚き、攻撃を止める。


「……転生者よ、これは……人間の“弱さ”ではなく、“経験”か」

「そうだよ。弱くても、仲間がいれば戦える」


 ルルが手を差し伸べ、マリエッタとリリアも肩を寄せる。


 四人の信頼が、ノービスの俺を支えた。

 ――弱さを認め合うことで、力が生まれる瞬間だった。


 ルシは一歩下がり、静かに言った。


「……わかった。転生者よ、今回だけは、力を見せてもらった」


 黒い光が収束し、攻撃が止む。


 俺は息を整え、棒を握り直す。


「……ノービスだけど、俺は今日も生き延びた」


 ルルが笑う。


「……やっぱり、あなたは特別ね」


 マリエッタも、リリアも、そっと微笑む。


 ――ノービスの戦闘は、終わった。

 でも、これからも人間ドラマは続く。

 魂と絆の試練は、まだ終わらないのだ。




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『ノービスだけど、スキルが鋭すぎる件』異世界ダンジョンクリアは6億と1回目なのでノービスでソロプレイするつもりなのに、かつてのヒロインたちが邪魔してきます 空花凪紗~永劫涅槃=虚空の先へ~ @Arkasha

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