第3話 意識の変化
そんな生活をしているうちに、知らず知らず皮膚感覚が変わってきたのだと思う。それは僕の美的感覚にも影響を与えていた。デリーに戻ってくると本当に驚いた。再び、サリーを来た少女が目に入る。そのときの感覚をどう表現するといいのだろう。まさしく、サンダルを履いていないからこそ、素足だからこそ、彼女は美しいのだ、そんな思いがこみ上げてきた。サンダルは邪魔者。その少女の素足を起点として、鋭敏な褐色の皮膚に包まれた体が全体として美そのものなのだった。サリーはその美をいっそう輝かしいものにする装飾に過ぎなかった。
もしも、素足が大地を直接踏むことなく、サンダル越しに間接的に大地に触れているのを目にするならば、僕にはそのサンダルは、きっと邪魔者に思えたことだろう。食事の時のナイフやフォークが、食べ物との関係を邪魔しているように。それらは、食事の楽しみを半減させてしまうように、そのサンダルも生き生きとした完璧な美の成立に対する傷になってしまう。この、皮膚に包まれた体そのものが生命力に溢れた美の起源であり、それは決して彫刻のように無機質なものではなく、温かく湿っていて鋭敏な、それでいて全的な統一のある一つの衝撃だった。衣服や履き物はその美を遮ることなく、よりいっそう高めることができててこそ意味を持つのだ。
もちろん、このサリーを着た美しい少女への想いは、僕という一人の観光者の独りよがりなのかも知れない。感傷でさえあるだろう。本当は、少女はサンダルを履きたかったのに、貧しくて買えなかっただけなのかも知れない。だが、豊かさが、便利さの誘惑が、それまで知らず知らず持っていたものを失わせることもあるだろう。その時、失ったものは取り戻せない。失ったことに気づきさえしない。失ったものは、儚く、消え去る。
悲しいことに、僕はもうその美を思い出すことができない。そういう美しさの一部に自分がなった感覚を、取り戻すことはできない。残っているのは、かつてそんな美を体験できたという記憶と、その衝撃に対する今なお尽きない憧れである。
了
サリーを着た少女の素足 @asobukodomono
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