11-3 敗者の目覚め

「試合なんかはなからどうでもいんだよ」


 八雲くんの構えが変わった。

 何か変だ。


「地下牢で手に入れた第二の呪文をくれてやる」


 ボルトラさん、剣術を教えてくれたのに、ごめんなさい。

 みんなルールを破って、ごめんなさい。

 

「“【神の夕だっゼウス・シャっ──!」


 八雲くんが叫ぼうとした。


 ぼくはその前に【蟒蛇うわばみ】を使った。

 姿を瞬時に消す。

 ステージ上を蛇のように這う。

 素早く移動した。


「ルールを破りやがったなあ!」


 八雲くんが嬉しそうに、ぼくを嘲る。


「ルールは破らざるを得ないときがある」

「自分に有利になるように捻じ曲げてんじゃねえよ、卑怯もんが」

「平和を守るときだ」


 剣を握る拳の底を心臓にそえる。


「“【雀蜂すずめばち】”──!」


 一気に腕を伸ばし、彼の鎖骨辺りを突き刺した。


 八雲くんがステージ下へ投げ飛ばされる。



*



 大歓声の中、ぼくはステージを下りた。


「あの“【雀蜂すずめばち】”を教えたのはボルトラか?」


 パイロの声が聞こえた。


「そうだが。それが何か?」

「別に。おまえにしては加減したんだな、と思って」

「加減?」


 千鶴は気になった。


「チヅルが勝ったな」


 ウィケットさんが嬉しそうに、左手でぼくの肩を抱いた。


「当たり前だ」


 とボルトラさん。


「誰が教えたと思っている。このぼくが教えたんだ」

「どのぼくだよ」

「ボルトラさんのおかげです。ありがとうございました」

「筋は良かった、チヅルくん。しかし一太刀とは情けない。あそこから連撃、つまり乱れ突きをかまし、相手を将来にわたり戦闘不能へ負いこんでこその【雀蜂すずめばち】だろ」

「そこまでしなくても」


 千鶴は苦笑いする。


「ぼくならそうしている、失礼な相手にはね」


 闘技大会はトーナメント。

 八雲くんには勝った。

 でも次の対戦相手には簡単に負けてしまった。

 ボルトラさんは意外にも「一週間も練習していないんだ、仕方ない。また頑張り給え」と応援してくれた。


 いい人なのか悪い人なのか、よくわからない人だ。



*



「また天井かよ」


 グラスヘイム。

 八雲は診療所のベッドの上で目が覚めた。


 部屋を飛び出し一階の受付へ向かった。


「闘技大会は?」

「大会? ああ、さきほど終わりましたけど」


 受付に呼び止められながら、八雲は診療所を飛び出してゆく。

 闘技大会の会場へ向かった。

 

「あんた、チヅルはどうした?」

「チヅル?」


 到着するなり適当な人をつかまえる。


「あああ、あいつだよ、英雄の」

「ああ、英雄様か。英雄様なら、随分前にここを発たれた」「は?」

「寂しくなるなあ。風のようなお方だった。現れたと思ったら、もうさようならだ」


 八雲は会場を後にする。

 復興がまだ終わっていない街並み。

 瓦礫の残骸。

 何もない焦土。

 街を駆け走りながら八雲にも痛々しいそれら光景が見えた。


「これがゴーレムの……」


 埠頭へ辿り着いた彼は砂の海を見た。

 ここからではよく見えない。

 目と鼻の先に丘が見えた。

 彼は雷雲を出し、飛び乗って丘まで行った。


 そこは崖の端だった。

 広大な砂の海が良く見える。

 夕日が八雲の顔を照らす。


「くそ──!」


 砂の海には、一隻の船も見当たらなかった。

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腐敗属性魔術の使い方~ばい菌扱いされた僕が、腐敗の手【黴菌拳《バイキング》】を手に入れ、英雄になるまで~ 酒とゾンビ/蒸留ロメロ @saketozombie210

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