11-2 千鶴VS八雲

 翌週。

 闘技大会、会場前。

 ぼくの手にはマメができていた。


「腐敗は治せるのに、そういうのは治せないんだな」


 パイロがのん気に言った。


「治せるわけないでしょ」

「変な話だよな、腐敗の方が本来治せねえのに」


 観客席はない。

 山形のステージをみんなで見上げる観覧方式。

 それにより遠くの人も観覧することができる。


 傍にボルトラさん、ビアンカさんの姿もあった。

 そこでアナウンスがかかる。


「次の選手は、我らがグラスヘイムの英雄──アサヒカワ・チヅル様です」

「チヅル、呼ばれたぞ」


 ウィケットさんが教えてくれた。


「行ってきます」


 振り返ってみんなの目を見る。

 ベルの手を離す。

 最後に目を見た。


 山型のステージ。

 そこに設けられた階段を上がる。

 頂上で対戦相手を待った。

 そこでアナウンスがかかる。


「そして対戦相手は、忌まわしき勇者教会から、ヤクモ・レン選手!」


 数秒遅れで気づいた。


「え……」


 時間が止まった。

 向かいの階段を八雲くんが上がって来た。


「どうして、八雲くんがここに……」

「チヅル、知り合いか?」


 ウィケットさんが階段下から訊いた。


「勇者です」

「なに?」

「どうして勇者教会がここに」


 ビアンカさんたち焼却隊が周囲を警戒した。


「誰もいねえよ、おれだけだ」


 八雲くんが辺りのざわつきに対して応えた。


「借りを返しにきた。地下牢では世話になった。おまえに助けられて、みんな精神病んでベッドの下で震えてら」

「どういうこと?」

「後遺症だ。そりゃそうだよな。あの地下牢へ下りた生徒の半数以上が戻ってこなかったんだ。医務室のベッドの数を見ておかしいと思った。あまりに少ねえから」


 八雲くんが木剣を構えた。


「その左手、どうした」

「……色々あった」

「まあ、そりゃ色々あるわな。異世界なんだ。剣を抜け、雑魚」

「チヅルくん」


 ボルトラさんの声。


「何をしている。早く構えなさい」


 ぼくは練習を思い出した。

 剣を構えた。


「おまえが俺よりつええはずがねえ。そうだろ、雑魚。その事実を手土産に、勇者教会へ戻るだけだ」

「ルールは分かってるよね」

「木剣のみだろ、わかってるって。エナルゲイア、、、、、、は使わねえ」

「エナルゲイア?」


 アナウンスが鳴った。


「始め!──」



*



山型ステージの頂上。

 その競技場で、千鶴と八雲が闘技が始まった。


「あの勇者教会の、まるで剣術を知らないようですね」


 ビアンカが言った。


「チヅルの動きがおかしい」


 ボルトラが述べる。


 千鶴は練習通りに。

 八雲は剣の扱いを知らず、叩きつけてきます

かつての高校という学校空間での立場が蘇り、千鶴は弱気になります。


「ビアンカ様の言う通り、相手はただのチンピラだ」

「なのにチヅルが押されてる。どういうことだ?」


 パイロが疑問を浮かべる。


「技ではない。もっと単純な、精神的なものだろう。チヅルくんは彼に怖気づいているようだ」


 八雲と千鶴の剣が交わる。

 そのとき八雲の剣先から電流が散った。

 それは千鶴へ流れ、彼は一瞬痺れる。

 動きが止まる。

 その隙に八雲は千鶴の左腕を叩く。


「真剣なら、いまのでおれの勝ちだ」


 観客がざわついている。


「何だ、いまあいつ何か飛ばさなかったか?」

「おーい、きみ。いま何か妙なことしなかったか? 木剣のみ使用がルールだぞ」


 審判が指摘する。

 八雲は両手を上げてとぼける。


 ボルトラの目つきが変わる。


「勇者め……」



*



「使っちまえよ、おまえも使えんだろ?」

「ルールは分かってるって言ったでしょ」

「違反があったかどうか判断すんのは、おまえでもおれでもねえ、審判だ」


 剣が触れるたび、八雲は「“【雷雲ゼウス】”」と囁き、電流を流す。

 千鶴は体がしびれる。


「使えよ、ヒーロー。苦しむ顔だけして、腹ん中じゃ、腐敗を使えばこんなやつ勝てるのに、とか思ってんだろ? 異世界チート野郎が」

「思ってない」

「じゃあ使えよ」

「この大会は、グラスヘイムの復興の証だ。悪い奴を追い出して、みんなで手に入れた新しいグラスヘイム、その出発点になる。勝手な個人の考えで邪魔しちゃいけない」

「人は迷惑かけあって生きてくもんだろ。それとも何か、おれのような奴は邪魔で、だから排除してもいいってか?」

「悪意は面倒見切れない」

「人は魔が刺す生きもんだ、それが人だ。悪意?……それも人だろ、偽善の英雄があ」

「悪は、腐敗だけ十分だ」


 ぼくはボルトラさんの顔をちらっと見た。

 “すみません”──。

 口の動きだけで伝えた。

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