8-2 精霊《ラム》の暴走
逃げるビアンカとパイロ。
「おーい!」
車椅子のウィケットが前方に見える。
こちらに手を振っている。
三人は合流した。
「チヅルを見なかったか? 砦を飛び出していったんだ」
「チヅルさんならあそこです」
ビアンカがサンドワームを指差す。
「サンドワーム……!」
かろうじて残る建物に隠れ、
サンドワームの姿が見えづらかった。
ウィケットはサンドワームに気づていなかった。
ウィケットの顔が強張る。
「あのサンドワームがチヅル?」
「ではなくて、その上に乗っているようです」
「何でサンドワームが街中に……何でチヅルが頭の上に……」
ウィケットが伸縮する望遠鏡を取り出す。
「チヅルが呼び寄せたように見えた」
パイロは顎をなでる。
「呼び寄せた?」
「多分な。おれにもよくわからん」
「というか、あれはサンドワームなのか? 砂漠で見るやつの二倍はあるぞ」
「おれもそれ、気になってたとこだ」
「ここを離れましょう。あとは彼に任せて」
ビアンカが急かす。
「ちょっと待ってくれ」
ウィケットが言った。
車椅子のハンドルをパイロが持つ。
「あれ、ボルトラか?」
望遠鏡越しにボルトラの姿が小さく見えていた。
*
左手がうずく。
もう無いのに。
『左手が痛むの?』
ベルの声がした。
「わかるの?」
『痛みを感じた』
「──またきみか、腐敗の少年」
ボルトラさんが目を開け、
岩から腕と肩を外した。
膝から下は瓦礫に埋まって動けないようだ。
「どうしてサンドワームの頭の上にいる」
「ぼくに協力してくれてます」
「サンドワームが人に協力?」
ボルトラさんが弱々しく笑った。
「意思疎通ができるとでも? まったく、次から次へと、きみは」
「いますぐ攻撃をやめてください。グラスヘイムがめちゃくです」
ボルトラさんが地上を横目に見た。
「これは、ぼくがやったのか?……記憶がないんだ。ぼくに主導権はない。ラムが暴走してるんだ」
「ラムが暴走?」
「精霊のことだ。ぼくにはどうすることもできない」
「街を壊したいんですか」
「言ってるだろ、どうしようもないと。壊すつもりはない。ラムに体を乗っ取られた。どのみち肉体には腐敗が広がりつつある。悔いはない」
「どうしたら止められますか」
「止める?」
「はい」
「必要ない。そのうちエネルギー切れになる。瀕死のラムの悪あがきだ、気にする必要はない。そのうち、ぼくは死ぬ。そしたらこの瓦礫も崩れるだろう」
ボルトラが咳払いした。
「その左手、悪かった」
ボルトラさんが悲鳴を上げた。
青い電撃がボルトラさんから飛び散る。
いままでよりも広範囲に。
地上へも飛び散る。
「“【
ベルの体から腐敗を爆発させた。
それでどうにか電撃を受け止めた。
『チヅル、どうする?』
ベルが問いかける。
避難すればいい。
ボルトラさんはそう言った。
いずれ崩れる、と。
時間稼ぎする必要はない。
逃げた方が賢明だろう。
でもそれだとボルトラさんが……。
「あの人、ウィケットさんの友達なんだ。ウィケットさんっていうのは……」
『チヅルがお世話になってる人だよね』
「知ってるの?」
『わかる』
「わかる?」
ベルの言葉の意味がいまひとつ理解できない。
『あの人のこと、助けたいの? でもあの人、チヅルの左手を奪った人だよね』
「うん」
『わたし、あの人嫌い』
──“いつかはボルトラも救われなきゃならない”
ウィケットさんの言葉が脳裏に過った。
──“おれたち第二世代は仲間であり、フーリュネの被害者だ。あの地にさえ行かなければ……”
パイロの言葉も。
二人が何を抱えているのか。
それはぼくにはわからない。
フーリュネで何があったのかも。
でも二人がボルトラさんを想い、同情しているのはわかる。
それはある意味、ぼくの左手よりも優先されることなんだろう。
二人に悪気はない。
「勇者教会に追放されて、行く当てもなく砂漠を彷徨った。出会いこそ微妙だったけど、初めてぼくを受け入れてくれたのはウィケットさんだ。パイロにも。その二人が、救われなきゃいけないってボルトラさんに対してそう言った。何かあるんだよ」
『何かって?』
「事情が」
『みんなあるよ、事情は。その左手のこと、許せるの?』
「……許せない。許す必要もない。ただ、ウィケットさんのためだ」
何故だか助けられる気がする。
死なせたいとも思わなかった。
『……わかった。チヅルがそうしたいなら』
ベルと一緒なら、やれそうな気がする。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます