3-3 感染爆発

「往生際が悪いな。いいか、よく考えろ。おまえらはずっとこいつと一緒にいたんだ。おまえらも罹患者だ。そう、おれが隊長へ報告したら、どうなると思う?」


 甲板じゅうの船員たちの顔が引き攣った。


「デタラメだ」

「卑怯だぞ」

「どうなると思うって聞いただけだろ、おれは何も言ってない。あとは焼却隊の判断だ」


 船員たちが次々に「ウィケット」と名を呼ぶ。

 決断を迫っている。

 ウィケットさんがぼくの目を見た。

 嫌だ。

 聞きたくない。

 薄っすらウィケットさんの口が開いたのが見えた。

 ぼくはその前に叫んだ。


「“【感染爆発アウトブレイク】”──!」


 ぼくの体が弾けた。

 ぼくの全身から腐敗が放流する。

 360度方向へ、一気に、


 背後のパイロが被った。

 すぐ離れたが、もう遅い。

 船員たちが避難していく。

 甲板の床を腐敗が流れてゆく。

 

「畜生、へました……」


 パイロの顔や首筋に腐敗の斑紋が見えた。

 彼はその場に倒れた。


「おまえの勝ちだ。だが焼却隊はおまえを追うぞ。そして見つける。絶対にな」

「ウィケット、危険だ」


 船員の声がした。


 ウィケットさんが腐敗の中を歩いてきた。

 足首にびっしょりかかってる。

 ぼくは【吸蝕きゅうしょく】を使ってウィケットさんの腐敗を吸った。


 船員たちがそれを見て目をしばたたかせる。


「チヅル、パイロを助けてやってくれ」


 ウィケットさんが告げた。


「はい?」

「悪いやつじゃない。ただ理解ができてないんだ。腐敗を除去するなど、これまでおれも考えたことすらなかった。チヅルに出会うまではな」

「助けたら、燃やされます」

「しないさ、いまおれがチヅルに除去してもらったのを見てたはずだ。自分が実際に目にしたものへの理解は早い」

「お断りします」


 ぼくは甲板に広がる腐敗をすべて吸収した。

 パイロは弱ってる。

 腐敗が体に広がってるんだろう。

 だんだん呼吸が浅くなってる。


「パイロを許してやってくれ。出ないとこの先、おまえが追われることになる」


 ぼくはどうするべきだろうか。

 蛇公がぼくに向けた殺意と同じだった。

 そこに脅しはない。

 確定した予定のような殺意。


「一生、焼却隊に追われて生きていくつもりか」


 ぼくはパイロに触れた。

 腐敗の斑紋をすべて吸い取った。


 パイロは自分の両手を見た。

 服をめくって腹を見たり。

 首筋や腕を確かめた。


「ほんとに消えてる……」


 都合のいい人だ。

 表情がさっきまでと違う。

 一変して好意的。


「説明しただろ、コントロールできるって」

「生成も除去も?」


 パイロがウィケットさんへ振り向く。


「ああ」


 船員も誰も感染してない。

 船員へ飛び散ったものも含めて、すべて吸収した。


「すげえ、すげえぞ、ウィケット、こりゃすげー!」


 パイロは目を輝かせた。

 ウィケットさんの肩に手を置いた。


「これでみんな救われるじゃねえか」


 わかりやすい人だ。

 人が変わった。


「事はそう単純じゃない。チヅルに世界を一周させるつもりか」

「そうは言わねえよ。だがこりゃ大発見だ」


 パイロがぼくの両肩に手を置く。


「おまえは救世主だ!」


 陽気なパイロ。

 溜息をつくウィケットさん。

 疲れた顔の船員たち。


 二人の会話が、声が、遠のいていく。

 プールに潜ったみたいに。

 

 ぼくも疲れた。

 地平線の先は、楽だろうか。

 

 普通になりたい。

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