クマ避けの鈴
ムーゴット
こみゅりょくつよつよ
「あっ、忘れ物した。」
「えっ、、、、。」
リーダーとして当てにしている
小さな声でつぶやいたから、不安にならないはずは無い。
「何? 大事なこと? 家に取りに帰る?」
まだ出発時間まで少し時間があるよ。
集合場所には、まだ全員揃っていないし。
「大丈夫。無くても支障は無いよ。」
「本当?」
「本当。ほんとに、あればそれに越したことはないけれど、
そんな程度のモノだから。」
「そうなの。」
「そうだよ。」
「ふーぅん。」
ホンのちょっと慌てたセリフを聞いただけなのに。
不安だ。
ただ、何事も無く出発した後は、
あたしの心配は冒険への高揚感から、なんとなく消え去ってしまった。
小学生最後の春休み。
卒業式の翌日に、仲良し6人で計画したサイクリング。
子供たちだけで、初めて県外へ。
経験者の
みんな安心して今日の日を迎えた。
朝イチのあのセリフが気になったことは忘れてしまって、
あたしは自転車を走らせている。
にしても、気持ちイイぃぃぃぃ!
春の風って、柔らかくてやさしい!
自転車って、楽しいぃぃぃぃ!
先頭を行く、
いや、もう卒業したから、元学級委員。
二番手は、
元気でかわいくて、声が大きい。
次は、
電車が大好き、ちょっと繊細な男の子。
次は、
気配りができる優しい女の子。
あたしと同じインドア派ね。
ラス2は、あたし。
えっ、自己紹介するの!?
、、、えっとぉ、
マンガが大好き。読むのも描くのも。
将来は漫画家になれたらいいな。
ラストは、
くだらないギャグが得意。
みんなを引かせたり笑わせたりする。
すぐに仲良くなった。
コミュ
改めて思う。
これで卒業なんだな。
他の5人は、同じ中学だけど、
クラスが同じになるとは限らないもんね。
これからも一緒に遊べるのかな。
これが最後になるのかな。
前走者が徐々にスローダウン。
「ゆっくりネェェェ!」
先頭から
車間距離が詰まって、会話ができるほどの距離感になった。
「ベル鳴らせばいいじゃん!」
「鳴らさないで。もうちょっと先で道が広くなるから、
そこで追い越そう。」
、、、そうか、少し前方を、4、5人の歩行者が道を塞いでいる。
ウォーキングかな、ご年配のご婦人方のお喋りが華やいでいる。
こちらには気づいていそうもない。
狭い路地裏の通りは、軽自動車がギリギリの幅。
追い越すなら、歩行者には一列になってもらわないと。
「俺が行こうか。」
「待って! 歩行者優先だよ。」
【チン!チン!チン!チン!チン!チン!】
ケタたましくベルを鳴らしながら、歩行者の後方に接近。
振り返ったご婦人方の表情はちょっと、ムッとしている。
「こんにちワァ! おねえさま方、歩き方カッコいいですね。」
「それって、スキーで使うヤツですか? すごぉい!カッコいぃ!」
「でも、雪もないのに、どうして使うんですか?」
「ノルディックウォーキング、って言うのよ。」
歩行者の一人が答えた。
「私は膝が悪いのだけれど、これを使えば、誰にも負けないわよ。」
左右のポールを持ち上げて見せている。
「すごい!すごい!今度お母さんにも勧めます。」
あたしたちを認識したおねえさま方は、
自然と一列になり、道を開けてくれた。
「じゃあ、私たち、先に行かせてもらいます、
失礼しまーす。」
次の休憩時に、その一件がみんなの話題に上がる。
「
「そうよ、
「自分で言う!?自分で言うから可愛くないんだよ。」
「何よ、
「違うわぃ!お前は厚かましいんだよ。
もう少しお
「ありがとう!褒め言葉ね。
私がカワイイ、って言いたいのね。」
「違うわ!お前の将来を心配しているんじゃ。」
「ボケ!」
「カス!」
ん!?何だか。
実は相性がいいのかな。
「
そして
「俺、実は今日ひとつ忘れ物したんだけど。
いつもは自転車にクマ鈴付けているんだけど、忘れちゃったんだ。」
「この辺りには、熊はいないでしょ?」
「ツキノワグマはいないけど、違うクマがいたでしょ。」
?????
「あ!熊
えっ、
「あっ、後ろから鈴の音が近づいて来たら、
歩行者のヒトは、自然に自転車に気づくのね。」
あ、
「ベルを鳴らすと、びっくりしてムカつくヒトもいるからね。
鈴なら少しずつ音が近づいて来て、ナチュラルに気がつく。
そうして道を開けてもらいやすいんだよ。」
それ、賢いやり方だね。
「でも、今日は鈴を忘れて来ちゃった。
でもでも、普通に声を掛ければいいんだね。」
「『こんにちは。通りまーす。あざぁす。』ってね。」
クマ避けの鈴 ムーゴット @moogot
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