第23話 俺が最も理解しているスキル

 舞台へ上がると俺の前に相手として少女が立っていた。

 外側は濃い茶色、裏側は濃い赤色のストレートのロングボブの髪で、白銀の片手剣を持っている。身長や体格は俺よりやや小さいようだ。


 (剣が相手ならねんりきみたいな遠距離スキルが有効だな。最悪近づかれても剣の動きなら予測もしやすいうえ、体格差で無理やり……いや、彼女が俺のような感じでなく普通に近距離向けの剣士ならステータスの差があるから体格差はあまり関係ないか……。とはいえ勝つことが難しいわけではない。俺の賞金ももう近いのかもな)

 俺は彼女の姿を見て、この先行われる戦闘について考える。

 

 俺がそんなふうにしていると、目の前の少女が俺の方を向いて口を開いた。

 「よろしく。私の名前はセツナ」

 「……! ああ、よろしく。俺は智也だ」

 そんな名乗りをする彼女に目を合わせ、俺も名乗り返す。

 (彼女はタメ口で来てるし俺もタメ口でいいか)

 

 「見たところあなたも剣士みたいだね」

 (……彼女の言う“剣士”は天職の話でなく、剣を使って戦うって意味か)

 「ああ、そうだ。見てわかる通りこの剣を使って……な」

 俺は腰に帯刀しているそれを彼女に見せつけるようにして言う。

 「ふふっ。剣士同士の戦いなら私はそうとうな自信があるよ。……けど、あなたもそうなんだろうね」

 「まあな。俺も自分の実力には自信を持ってるよ。それこそ俺も剣士同士の戦いなら負けないつもりだ。ま、どちらが上かはこの決勝戦で決まるだろうけどな」

 「そうだね。ひとまず私はあなたに負けない。とだけ言っておくよ」

 「それじゃあ俺はお前に勝つ。と言っておくぜ」

 

 そんなやりとりをした直後、毎度同じような「開始ッ!!」という声と共に試合が始まった。


 「ねんりき!」

 剣士相手だ。まずは距離を縮めさせないようにねんりきを撃つ。が、セツナには軽く避けられてしまった。

 俺のねんりきを避けたセツナは一気に俺との距離を詰めて、俺に向けて剣を振るう。

 (速いっ……!)

 咄嗟に俺は後ろに下がる。その剣は風を切り、そして俺の横腹をかすめた。

 「——っ」

 すぐに俺の元に彼女からの追撃が襲い来る。

 (やっぱり速い……が! それの予測ならできていた!)

 俺は即座に剣を腰から引き抜き、それを受け止める。

 剣と剣が勢いよくぶつかり、カァァァン! という音が響く。

 しかしその威力を抑え切ることはできずに俺は後ろに軽く飛ばされてしまう。

 「なっ! この剣……重い!」

 「ふふっ、簡単に受け止められる威力じゃないよ!」


 (あの速度でこの威力の剣を受け続けたらさすがにまずい。可能な限り受け流していこう……)

 俺が考えていると、セツナはすぐに俺との距離を縮め初める。

 「自己暗示」

 俺はそのスキルで自身のスピードを高める。そのスピードでセツナとの距離を離そうと試みる。しかし彼女が相当なスピードで俺を追いかけるためその距離は離れず、お互いの剣が届かない程度の間合いが維持される。

 「逃がさないよ」

 (ぐっ……なんでか最近はトレサのように自己暗示でスピードが上がってる俺に追いついてくるヤツが増えた気がするっ! てかトレサはスキルを使ってたからともかく、こいつはスキルなしでよく俺に追いつけるな!)

 「ねんりき!」

 俺はその状態からなんとか彼女の脚を止めるため、それを放つ。

 それを確認した彼女は脚を止めずに剣を一振りしてその言葉を、スキルの名を紡いだ。

 「クロスセイバー!」

 その一振りによって生み出されたモノは十字の光。

 「——っ! まさか……!」

 その十字の斬撃は当然のように俺のねんりきを打ち消し、凄まじい勢いで空気を切り裂き、俺の元へとたどり着いた。

 しかしその斬撃は俺にぶつかることなく突き進み、後方に見える闘技場の壁に十字の傷を残す。

 「なっ……! なんで当たらな……」

 「そりゃあ避けたんだから俺には当たってないだろう」

 セツナはそんな疑問の声をあげる。今までこれをかわされたことがなかったのだろうか。

 「ねんりき!」

 そんな彼女の見せた隙に、俺はねんりきを放つ。宙を泳いで進むその波は彼女の意識を戦闘に引き戻す。

 「クロスセイバー!」

 セツナは先ほどと同じように俺のねんりきをその斬撃で消し去る。残された斬撃はものすごい速度で俺に向かってくる。が、俺はまたその斬撃をひょいっとかわす。

 「なんであなたはこれを避けれるの!?」

 セツナはそんな疑問を俺に投げかけた。やはり今まで避けられたことはなかったのだろう。

 (うーむ……これくらいなら完全武装を使用したトレサでも避けられる気がするが……いや、ドーリスやカイラじゃあ厳しい気もする。やっぱりトレサは強かったんだな)

 俺はそうトレサの身体能力を思い返す。とはいえ俺がクロスセイバーを避けられるのは身体能力とは別の要因によるモノだ。


 「俺は……そのスキルは昔からずっと見て、そして何度も避けていたからだ」

 「どういうこと!?」

 そう。俺はこのスキルを知っている。どころか自分の持つスキルよりも知り、理解しているのではないだろうか。

 このスキルは、俺の両親がよく使っていたものだった。

 「お前の天職は『剣聖』だろ?」

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