第16話 一般天職とその劣化天職
それから1時間たち、ついに本戦が始まろうとしていた。
「俺の本戦の相手は6番の人か。一体誰なんだろう」
本戦は最初に1番と2番の試合、次に3番と4番の試合、5番と6番の試合というように進んでいく。ゆえ、俺の試合は前の二試合が終わってからだ。
そして待つこと数十分。ついに俺の試合の番がきていた。俺は先ほどのお姉さんの元へ行き、そして闘技場へと誘導されて入場する。
「予選の時は気にならなかったけど観客席なんてあったんだな。ここ」
周囲を見回すとその席が埋まるほどの観客がそこにはいた。
(このイベントで人を呼び、街おこし的なことをするってわけか。確かに賞金を欲しがる冒険者たちが集まってくるだろうし、冒険者同士の戦いに興味のある人は観にくる。よくできたイベントだ。うまくいかないこともあるだろうけど、少なくとも今回はうまくいっているしな)
直後、俺の反対側の道から俺の相手らしき人物が現れた。その相手は一目で天職がわかるような格好をしていた。
(多分魔法使いなんだろうな、天職)
目の前の相手は童話に出てくる魔法使いのような大きな先っぽを折り曲げた三角形を頭に被ってた女性。
(ただ……リコもそんな服装をしてたけど天職は錬金術師だったし、見た目で判断してはいけないだろう。実際に戦ってスキルを見るまでは判断できないもんだ)
そんなことを考えていたら大きな声が耳に入ってきた。
「試合開始っ!!」
その瞬間、目の前の女は俺にスキルを放つ。
「先手必勝っ! ファイアボール!」
ファイアボール。それは魔法使いのスキルで、エスパーでいうところのねんりきのような、天職が発現した瞬間から使うことができるスキルだ。
つまりこれでその女性が魔法使いであることは確定した。
そんな炎の玉が俺に向かって一直線に飛んでくる。俺はそれにぶつけるようにスキルを発動した。
「ねんりき!」
俺の放ったその桃色の波と炎の玉がぶつかり合う。が炎の玉は波を飲み込み、そのまま俺に向かってくる。
(おっと、なるほど。忘れていた。彼女の天職は魔法使い。俺の天職、エスパーは魔法使いの劣化だ。スキルで相殺できるわけがないか……)
そんな考えが頭に浮かんだ俺は、寸前で身を逸らしてその玉を避ける。
「へえ、だけれど……遅い。サンダー」
俺が避けた時にはすでに次のスキルが放たれていた。その女性の手に紫色のプラズマがほと走り、直後、紫色の電撃が放たれて俺に直撃する。
「速い……! くうっ!」
(痛い! けどまあ、前の巨大なモンスターの攻撃ほど痛くはないな。……。あれって一応かすっただけだよなあ。あいつが強すぎたのか、それとも俺が成長したのか……どっちだろうな)
そんなことを考えながらも俺は体制を整える。
「ねんりき……確かエスパーのスキルだっけ? どうなの?」
「そうだけど、戦闘中にそんな問いに答える必要があるのか?」
「むしろ戦闘中以外にこんな質問することないでしょう」
「……それもそうだな。ああそうだ。俺はエスパーだよ」
俺は彼女の言葉に誘われ、天職を吐露する。とはいえ彼女はエスパーとねんりきのことを知っているようだったし、言ったとしてもそこまでの影響はないだろう。
「ちなみにお分かりだろうけど、私は魔法使いよ。世間ではエスパーの上位互換って言われてるみたい」
「……、それがどうした?」
「私に勝とうとするなって言ってるの。エスパーは魔法使いの“劣化”なのだから」
「だから、それがどうしたんだ? 別に、俺がお前の劣化というわけじゃあないだろう?」
「……言うじゃない。私が、このカイラ・フェロウズがあなたと同列か、下回ってる? そんなことあり得ないと、私の力であなたに証明してあげるわ!」
瞬間彼女、カイラ・フェロウズの手にプラズマが走った。それは『サンダー』の合図だ。
「サンダー!」
カイラの手からその雷撃が放たれる。
「く、うおお!」
それを俺は全力で横に飛び込んで回避する。
「ファイアボール!」
その瞬間に俺に向かってその炎は放たれる。
「はっ……! そっちから先に放つべきだったな」
それを俺は立ち上がり、回避する。
「なっ……へえ、なかなか素早いみたいだね」
「それがサンダーだったら避けれなかったさ。これはファイアボールからサンダーって順で撃たなかったお前のミスだな」
ファイアボールとサンダーの差は威力と速度。ファイアボールはサンダーよりも威力が高い代わりにスピードが遅い。対してサンダーはファイアボールと比べたら威力は小さいが、スピードは相当なモノだ。
「……」
「それじゃあ今度はこっちもやらせてもらうぞ。サイコクラッシュ!」
瞬間、カイラに当たらないくらいの横に桃色の円形が浮かび上がった。
「ふふっ。一体どこに撃って……」
「ねんりき!」
俺はそのスキルをカイラの正面に立って放つ。
「なるほど。それでサイコクラッシュのとなりに誘導するつもりね。けどゴブリンじゃないんだからその手には乗らないわよ? ファイアボール!」
「自己暗示」
カイラの手から炎が生まれ、球体となり、放たれる。俺のねんりきはその炎に飲み込まれて消え去る。
「遅い!」
その時俺はすでにカイラの真横、サイコクラッシュの反対側に回り込んでいた。
「なっ……!」
俺はそのまま剣を逆手で持ち、持ち手の部分で彼女をサイコクラッシュの方へと押し出した。
「どうだ!」
「っ!」
それによって彼女はサイコクラッシュの爆発に飲み込まれ……なかった。
「ウィンド!」
彼女の手から生み出された強い風圧は地面に向けられ、彼女の身体を上空へ、それもサイコクラッシュの爆発から逃れるほどの場所へと押し出したのだ。
しかしその瞬間、それを確認した時俺は高速でその上空へ跳び上がっていた。
「サイコエンチャントォ!」
剣にサイコパワーを付与して俺はそれを彼女に振るう。
「ちっ……! フリーズ!」
「何っ! 肩が……!」
彼女から放たれたその冷気によって俺の肩は凍りつかされ、剣を振るうことができなかった。
「だったら、パワー爆発!」
バンっ! とそのサイコパワーは爆発し、カイラと俺の肩の氷を巻き込む。
「きゃあ!」
その爆発で彼女の身体は吹き飛ばされ、地面へ落下する。そんな彼女を俺は剣を構え、全力ダッシュで追いかける。
目の前まで近づいた瞬間に俺の体は風に吹き飛ばされていた。
「ウィンド!」
「な……ぐわあ!」
俺はその風に飛ばされて尻もちをつく。
(ははあ、なるほど。さすが遠距離戦闘が得意な魔法使い。やっぱりそういう天職だからか距離をとる手段は持ち合わせているのか)
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