第5話 巨大なモンスターとの激闘

 俺の耳に甲高い声が届く。

 「なっ……! 誰かが襲われてる!?」

 それに気づいた俺の足は勝手に声の元へと向かってしまっていた。かつて父に弱きものを守れる勇敢な男になれなどと吹き込まれ続けていたせいだろう。

 実際のところ俺の父は、ハズレ天職の俺を罵り、捨てた。それが正義と言えるのだろうか。それはわからないが、ひとまず今から俺は自分の行うことが正義だと信じて行うということは真実だ。


 そんな父との記憶が頭によぎりながらも、俺は声の元へと走る。風よりも早く走っている。そんなつもりだ。

 すると俺の進行方向の反対に向かうモンスターが見えた。やつらは皆足音の主から逃げているように見える。それほどヤバいモンスターということなのだろう。

 「見えた!」

 俺の目は3メートルほどの巨大なモンスターとそれに襲われている同年代くらいの少女を見つけた。彼女が甲高い声の主だろう。咄嗟に俺はモンスターにスキルを放つ。

 「ねんりき!!」

 その巨体に俺のスキルは直撃する。が、やつの体に傷がついているようには見えなかった。

 「グルアァ……?」

 瞬時にこちらにやつの注意がむく。

 「グギュルアァァァッ!!」

 瞬間、巨体から耳が割れるような咆哮が聞こえる。

 「ぐ、あ……!」

 それによって俺の体中が痺れる。俺が勝てるような相手じゃないことが、そんな咆哮だけで理解できる。が俺は逃げてはならない。そこの彼女が避難できるまでは絶対に。

 「グギュルギュアァ!」

 直後、やつはドスドスと強烈な足音を出しながらこちらに向かって近づいてくる。ただ決してやつの動きは速いわけじゃあない。ではあるが、こちらの攻撃はほとんどダメージを与えられないようだ。それでも……

 「逃げるまでの時間を稼げないわけじゃない!」

 やつの突進から振り下ろされた左手を俺は距離をとりながらかわす。

 「地面を砕いた!?」

 やつの拳は地面に大きなヒビをいれた。俺はスキルを放つための構えをしようとしたがやつの左手が砕いた地面につまずき、体制を大きく崩してしまう。追撃がくる。右手が振り下ろされる。その攻撃を俺はなんとか身をそらして避けた。そのつもりだった。

 地面に赤い液体が飛び散った。

「ぐあっ!?」

 やつの恐ろしい威力の右手は俺の体にわずかにかすっていた。痛みに耐えて俺は姿勢を直す。幸いやつの攻撃は急所に入ったわけではない。かすっただけだ。少女の方へ向くとまだ避難はしていないようだ。いやそうじゃない。避難できていない! よく見ればわかる。血のような、赤い液体がながれる彼女の足はまったく動いていないように見える。つまりなんとかして逃げる隙をつくって彼女を担ぐかなんとかして逃げなければならない。


 「ねんりき!」

 やつの顔面にねんりきをくらわせる。がやはりダメージはない。

 「なんとかしてあいつにダメージを与えられる方法を見つけないと!」

 そう考えたあたりを見回す。

 (ここは森だ。きっとやつの体格と同じくらいの大きさの巨木が生えているだろう)

「あった……! あいつの攻撃をこの木に当ててしまえば...!」

 木はやつの攻撃にあたれば倒れるだろう。そしていくらあの巨体といえど同じ大きさの倒れる木が直撃すればひるむはず。

 巨木の前に立ち、あいつの動きを誘導する。

 「サイコクラッシュ!」

 ゴブリンはこれを避けるようにして動いた。ならばあいつもそう動くだろう。これだけ強そうでゴブリンより頭が悪い、通常バカだなんてことはさすがにないだろうからな。

 「グギュアァァァ!!」

 狙い通りやつは円形から離れるようにしてこちらへ向かってくる。あいつは俺に向かって巨木を巻き込むほど大きな攻撃を放った。俺は前方にスライディングでやつの体の隙間をくぐり抜け、彼女の方へと走る。

 その刹那ゴーンといったような轟音がきこえる。やつが怯んだかなんて確認する暇がない!俺は振り向かずに彼女の方へと走る。そして彼女を担ぎ上げ背中に背負った。

 「逃げるから捕まっててくれ! お嬢さん!」

 そのまま森の外へと走る。軽い。そして俺より少し小さい。これくらいならば背負いながらも森から脱出することは容易だ。

 「はあ……」

 どれほど走っただろうか。俺の目に光が差し込む。

「きた! よし、外にでれた! 逃げ切った!」

 後ろから聞こえていた足音が聞こえなくなった。完全にやつから逃げ切った。ほっと一息をつくと背中から声がした。

 「あ、ありがとう。とりあえず一度おろして」

 言われた通りに彼女のその小さな体を地にそーとおろす。

 その少女は魔法使いのような帽子や服をきていた。黒っぽい紫色の長い髪に多い被さっている帽子は彼女の目を隠すほどに大きい帽子だった。いろいろと考えているとその少女が口を開く。

 「助けてくれてありがとう。私の名前はリコ・ガラポーユ。本当に感謝してる」

 彼女はじゃっかんダルそうな声で名を名乗り感謝をのべてくれた。

 「どういたしまして。どこかの街に運ぶよ。どこへ行けばいい?」

 「いや、大丈夫。もう足の痛みは引いてるし自分で歩ける」

 リコはそう言葉を放つ。

 「本当に大丈夫?あそこまでの傷をおって本当に目的地へ行ける?」

 個人的には本当に心配したつもりで言葉を放ったつもりだったが彼女にどういった捉え方をされたのがわからないがなんだか不服そうな声で彼女は言葉を返してきた。

 「大丈夫。いらない心配。そもそもそんなに大きな傷はおっていないしあなたの体の方がはるかにデカい傷をおってる」

 言葉を返すことはできなかった。確かに客観的に見れば足におっている傷よりも俺の体の傷の方がデカい傷だった。

 「もう一度言うけど本当に感謝してる。ありがとう。だけど今の私にあなたのその提案は余計なお世話。それじゃ」

 そう言うと彼女は足早にここを去っていった。

 「……なんだかムカつくなあ。せっかく心配して言ったのにあんな言葉を吐くだなんて。や、まあいいんだけどさ……」

 それに、彼女の言葉に何も返せなかったのも少しムカついてくる。そのようなことをしばらく考えた後、街へと足を進めるのだった。

 

 街へ戻り、まずは市場へ向かった。体の傷をなおすために回復薬を買いに行くのだ。

 最近の回復薬はとてもコスパがよく、500ゴールドの回復薬で今の俺のような外傷程度なら完全に回復する。昔はこんなスペックの回復薬を買うとなると10倍の5000ゴールドが必要だったとのことだが技術の進歩によってここまで安くなったらしい。そんなこんなで回復薬を購入して体の傷を直し、ついでに今日の晩飯を購入した。

 今日はかなり疲れたのだ。多少贅沢しても誰も文句はいうまい。そうして俺は宿に戻り、買ってきた肉(総額4200ゴールド)を堪能し、眠りにつくのだった。

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