プレゼント - 1

 十二月の空は曇り空だ。季節は冬、冷え込みは容赦がない。深呼吸すると突き刺すみたいに澄んだ空気が感じられる。

 僕は一段と厚着をして、ショッピングモールに出掛けた。

 十時の開店に合わせて出入口についてみると、そこには春ちゃんと天夏ちゃんが居た。


「二人ともおはよう」

「おはよう」

「俊彦、遅えぞ」

「ごめん春ちゃん」

「ちゃんと千円持って来たか」

「うん、今日のためにお小遣い貯めてたからね」

「まじか、俺なんて前借りしたぜ。おかげで来月は小遣い無し‥‥‥」

「二人とも早く行こ。もう入れるよ」


 僕たちがこうして集まった理由は、咲良ちゃんのためだ。

 九月の終わり頃、春ちゃんに誘われて計画した、咲良ちゃんの誕生日サプライズ。

 初めは咲良ちゃんの誕生日が分からないところからスタートしたけど、なんとか見当をつけた僕たちは、今度はプレゼントを用意することにした。

 プレゼントは、このショッピングモールで用意することになっている。


*****


 店の中に入ると、天夏ちゃんが僕たち二人を先導してくれた。

 エスカレーターに乗って二階に向かう。


「いやあ、最初はどうなるかと思ったけど、誕生日が分かったらこっちのもんだよな。あとはプレゼント買えばいいだけだし」


 前に立っている春ちゃんは、僕を見下ろしつつ笑顔で言った。


「そうだね。今日でプレゼントを用意したら、後は誕生日本番を待てばいいだけだから」


 そう答えながら、僕は少しだけ考える。

 春ちゃんが、咲良ちゃんの誕生日をお祝いしようとした理由は何だろう。

 二人の仲は悪かったのに、突然春ちゃんはサプライズをしようと言いだした。

 最初は良からぬことを考えているんじゃないかと不安だったけど、どうやらそうではないらしいことは、この前一緒に咲良ちゃんの誕生日について調べたときに確信できた。春ちゃんは純粋に誕生日を祝おうとしている。

 だから悪いことを考えていないという点では安心できる。

 ただ、だとしたら余計に不思議だった。

 どうして春ちゃんが、咲良ちゃんの誕生日をお祝いしようとしてるのか。

 僕が知る限り、春ちゃんと咲良ちゃんの仲は良くなってない。

 だというのにお祝いしようとするのには、どんな考えがあるのか。

 春ちゃんが、咲良ちゃんをお祝いしようと考えるようになったこととは何なのか。

 そんなことを考えているうちに、エスカレーターは二階に到着した。そこから天夏ちゃんの後について歩いてみると、すぐに目的の場所が見えてきた。

 お目当てを前にして天夏ちゃんは興奮したらしい。僕と春ちゃんを置いて、一人で駆けて行ってしまった。

 そしてその店の前に立ち、後方の僕たちに呼びかけた。


「こっちこっち。二人とも早くして」


 急かされて、何となく僕たち二人も早足になった。


「はしゃぎすぎだろ」


 普段なら言い返しそうな春ちゃんの冷やかしにも、今の天夏ちゃんは気付かない。それくらい目の前にあるものに夢中になっていた。

 そこは『はむはむ』のポップアップショップだった。

『はむはむ』はハムスターのキャラクターが登場する作品で、可愛い見た目とシビアな世界観がたくさんの人の人気を集めている。

 天夏ちゃんはこの『はむはむ』の大ファンであり、咲良ちゃんも同様だった。

 今月からこのポップアップショップで冬限定のグッズが出ているらしく、咲良ちゃんの誕生日プレゼントを買うならこれしかないと、僕たちはここに来たのだ。

 そして開店直後だというのに、すでにお客さんがたくさんいた。


「すごいね。やっぱり人気だなあ」


 目の前の光景に圧倒されて、僕はそんなことを呟いた。


「こんな人居るとこにいつまでも居られねえよ。さっさと買おうぜ。何だっけ、限定キーホルダーで良いんだよな」


 春ちゃんは天夏ちゃんに尋ねた。

 しかし、天夏ちゃんは質問には返答しない。彼女は傍に置いてあった立て看板を眺めていた。看板を見てみると、そこには冬季限定グッズの品揃えが載っていた。


 ‥‥‥あれ?ちょっと待てよ。


 予定とは違うあることに気付いて、僕は他二人の顔を覗き込んだ。

 春ちゃんは顔を顰めるようにしていた。多分、僕と同じことに気付いている。

 そして天夏ちゃんを見ると、ちょうど彼女もこちらを向いた。

 天夏ちゃんは少し言いづらそうにしながら、どうにか言った。


「ごめん‥‥‥言い忘れてた‥‥‥今年からグッズが増えたんだった‥‥‥」


 僕たちが買おうとしていた限定キーホルダーは看板の中には見当たらず、その代わり種類豊富なグッズが販売されているようだった。

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