天夏の思い出 - 3
わたしは柔道部に入っていた。そのため、部活で邪魔にならないくらいに、髪は短くしていた。
背が高くて、髪が短い。そのうえ柔道をやっているとなると、自分でも女の子らしくないなと思う。とはいえ、
とにかく、そんなわたしは、普段遊ぶとなると基本的にはアウトドア派だった。
ただ、
そのため、わたしは他の友達に鬼ごっことかに誘われない限りは、咲良ちゃんに合わせて休み時間を過ごしていた。
よくやっていたのは占いだ。占い本を学校に持ってきて、お互いの性格だったり、運勢だったりを占っていた。
*****
曇り空が続いていた梅雨の日。
その日はお昼休みに星座占いをしていた。給食を食べ終えた後、自分たちの席に座り、体を向かい合わせていた。使っていた占い本は、星座からその人の性格を占うタイプのものだ。
最初にわたしが占ってもらった。
「天夏ちゃんの星座は?」
「わたし双子座。一人っ子だけど、双子」
わたしの冗談にくすくす笑いながら、咲良ちゃんは本に目を通した。
「えっとね、双子座のあなたは話すのが大好きで、誰とでも仲良くなれます。あと、表現力があるって」
「え~?わたし、あんまり国語のテスト良くないよ。作文も苦手」
「でも、誰とでも仲良くなれるのは当たってるよ。
そこに関してはわたしも自信を持ってるけど、面と向かって言われると、ちょっと照れ臭かった。
「半分当たってて、半分ハズレって感じかな。じゃあ次は咲良ちゃんの番」
咲良ちゃんから占い本を受け取って、もくじを開く。
「じゃあ、咲良ちゃんの星座教えて」
「やぎ座だよ。メ~」
さっきのわたしの冗談に対するお返しのように、咲良ちゃんはやぎの声真似をした。そのすぐ後で、顔を真っ赤にしていた。
その一連の動作にひと笑いしてから、わたしはやぎ座のページを開いた。
「やぎ座のあなたは、我慢強い人です。最後まで物事をやりぬくことが出来ます」
正直、わたしにはこれが咲良ちゃんの人柄と合っているとは思えなかった。知り合ってからそんなに時間が経っていないのもあるけど、何よりわたしの中の咲良ちゃんは小動物みたいなイメージがあったからだ。
ただ、わたしの思いとは反対に、咲良ちゃんはえっへんと胸を逸らした。
「この占いは全部当たってるんじゃないかな」
得意げな顔をして、咲良ちゃんは言った。
「えー、そうかなぁ」
「あ、天夏ちゃんひどい」
そんなやり取りをして、わたしたちは笑いあった。
*****
「さっき言ってたけど、天夏ちゃんって一人っ子なんだね」
星座占いがひと段落すると、咲良ちゃんが訊いてきた。
「そうだよ。だから、兄弟とか姉妹がいる人が羨ましいなあ、って思う」
自分に兄弟姉妹がいたら、一緒に外で遊んだり、おしゃべりしたり。きっと楽しいんだろうな。
わたしの話を聞くと、咲良ちゃんはうんうんと頷いていた。
「もしかして咲良ちゃんって、一人っ子じゃないの」
「お姉ちゃんが居るよ。三つ上で、この学校の六年生」
「そうなんだ。じゃあ、一緒に転校してきたんだ」
咲良ちゃんが転校してきたんだから、きっとお姉さんの方も同じなんだろうと思った。
ただ、咲良ちゃんは首を振った。
「ううん、転校してきたのはわたしだけ。ちょっと事情があってね」
そう口にする咲良ちゃんは、すこし言いづらそうにしていた。この話はあまりしない方が良いように感じて、「そうなんだ」とだけ返した。
「でも、お姉さんのこと好きなんだね」
わたしが羨ましいと言った時の頷きようを見たら、誰でもそう思うだろう。まるでお姉さんが居ることを自慢するような仕草だった。
「お姉ちゃんは静かな人なんだけどね、わたしのこと凄く気遣ってくれるんだ。だから好きなの」
そう口にする咲良ちゃんが、とても幸せそうに見えて、わたしはますます羨ましくなった。
「ねえねえ、天夏ちゃんは、兄弟か姉妹が出来るとしたらどっちがいい?」
「そうだなあ、男の子だと話が合わなそうだし、やっぱり姉妹かな。昔から下の子が欲しかったんだよね。妹が出来たら、晴れてる日は外で遊んで、家ではおしゃべりして‥‥‥」
「下の子かあ。末っ子だから憧れだな。わたしだったら、弟が欲しいな。男の子がどんなふうに遊ぶのか気になるもん」
「確かに、そう考えたら面白そうかも。でも、さっきの咲良ちゃんの話聞いてたら、お姉ちゃんもいいかもって感じする」
わたしが言うと、咲良ちゃんは得意満面の笑顔を浮かべた。「いいでしょー?」と口にする咲良ちゃんは、とても可愛らしかった。
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