第4話 晴斗と紗季
「どこか行きたいところある?」
マッチングアプリで知り合って、今週末が初めてのデート。
紗季は迷わずメッセージを返した。
「カフェがいいな。景色のいいところで、コーヒーでも飲みながら晴斗君とのんびり過ごしたい」
それに対して、晴斗の返信はこうだった。
「了解! 景色のいいところで、コーヒー飲みたいなら、いいホテルを知ってる!」
へえ、シティホテルの展望ラウンジとかかな?
そう思って、「楽しみにしてる!」と返事した。
……でも、当日。
晴斗の車が向かったのは、どう見てもシティホテルのある方向じゃなかった。
「え、ちょっと。ここってラブホテル街じゃない?」
「うん。最近できたとこ。めっちゃ設備いいらしくてさ。最上階を予約してるから、景色も最高だと思うよ」
「……それ、シティホテルじゃなくて、ラブホテルじゃん!」
「ラブホテルじゃなくて、レジャーホテルだよ。コーヒーも豆から淹れられるらしいよ」
「いや、そういう問題じゃなくて!」
ツッコミが止まらないまま、車はホテルの駐車場に滑り込んだ。
「……なにこれ」
部屋に入った瞬間、紗季は思わず声を漏らした。
最上階の角部屋。大きな窓の向こうには、広い湾とその向こうに広がる海が一望できた。
「ね。普通のカフェより景色も良いでしょ?」
晴斗が後ろから得意げに言う。
「いや、確かに……って、いやいやいや、だからって!」
紗季は慌てて振り返り、ツッコミを入れた。
「カフェって言ったのに、なんで私、最上階のレジャーホテルに連れてこられてるの!」
「でもコーヒーもあるよ?」
そう言って、晴斗は備え付けのコーヒー豆をコーヒーミルに入れ、挽き始めた。
「わー、本格的ね……って、そこじゃないのよ!」
「コーヒーちょっと時間かかるからさ。お風呂でも入りながら待ってていいよ」
「入らないわよ!」
気づけばふたりは、マッサージチェアでくつろぎながら、コーヒーを片手に映画を観ていた。
「ねえ、今日って何しに来たんだっけ?」
「コーヒーを飲みに来たんだよ」
「いや、絶対違うでしょ」
笑いながら、紗季はベッドに寝転がった。
初デートでレジャーホテルに来るなんて、最初はどうなることかと思ったけど——
なんだかんだで、楽しい。
映画が終わり、部屋に静けさが戻ったころ。
紗季は、使われていない豪華なお風呂を眺めながら、いたずらっぽく笑った。
「ね。せっかくだし、お風呂、入っていかない?」
「え? いいの?」
「冗談だってば。今日はコーヒーを飲みに来たんだから」
そう言いつつ、紗季の目は少し名残惜しそうにお風呂を追っていた。
帰りの車内。
「どうだった? ホテルのコーヒーも侮れないでしょ」
「うん……来週も、コーヒーを飲みにホテル行こうか」
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