第10話その頃の父は・・・
私達が列車内で暢気に過ごしている一方で、リブロー侯爵家では、私が居なくなったことで騒動が起こっていました。
家出を決行したその日、夕方になっても屋敷に戻らなかったので、大騒ぎになったようです。
まぁ、自分の娘が家出をしたとなれば騒ぎにもなるでしょう。
「戻っていないとはどういうことだ!?」
屋敷の執務室で、お父様が執事を怒鳴りつけています。
「も、申し訳ありません」
「謝って済む問題か! どうなっている!?」
「い、いえ……。いつものように専属侍女を連れて外出されていると思っていたのですが……」
「御者はどうした!」
「それが……。馬車の御者も、馬も行方不明でして……」
「何!?どういうことだ!?」
「わ、わかりません」
執事も困惑しているようです。
それはそうでしょう。
侍女のジャンヌだけではなく。私が乗っていった馬車も馬も、誰も戻っては来なかったのですから。
「馬車ごといなくなっただと……?」
「は、はい」
「一体何処に行ったんだ……?」
「だ、旦那様、もしや……お嬢様は、その……誰かに……」
それは……」
執事が言い淀みます。
それはそうでしょう。
侯爵家の令嬢が誘拐されたなどと、口が裂けても言えるはずもないのですから。
お父様も、その可能性に気付いたのでしょう。
「……事を荒立てたくはない。このことは他言無用だ」
「か、かしこまりました」
大事にはしたくないのでしょう。
娘がどこの誰とも知らない者に誘拐されたとあっては。
結婚前の娘に傷がついたとなれば、大問題ですからね。
お父様は、極秘に私を捜索するよう指示をしましたが、執事には別の懸念がありました。
それは、単純な身代金目的ではないのではないか、と。
「マルル侯爵家との縁組に反対している者の仕業かもしれません」
「ないとは言い切れないな。だが、この婚約は国王陛下もお認めになっているものだ。そう簡単には……。それにマリアンヌはギーズ公爵家の直系だ。マリアンヌに手を出せば、リブロー侯爵家だけでなく、ギーズ公爵家も黙っていない」
「ギーズ公爵は、お嬢様の叔父上にあたる方でしたね」
「ああ、そうだ。ミリアムの弟だ」
「旦那様、ギーズ公爵家に連絡をしてみてはいかがでしょうか」
執事としては良かれと思っての発言なのでしょうが……。
「あ、いや、それは……」
「旦那様?」
「……まだ誘拐と決まったわけではない。マリアンヌはミリアムに似て気まぐれなところもある。二、三日して何事もなく戻ってくるかもしれない。そう思わないか?」
「は……はぁ」
お父様の苦しい言い訳?言い繕い?に、執事は何とも言えない表情を浮かべています。
執事がこんな顔をするのも当然でしょう。
いくら気まぐれな性格とはいえ、私は屋敷を抜け出したことはありませんし、無断外泊など、したこともありませんでしたから。
だいたい、気まぐれとは何でしょう。
お母様の場合は病弱すぎて屋敷の外に出ることすら滅多にありませんでした。
まあ、私もお母様も別の部分でお父様の言う「気まぐれ」を発揮していたのかもしれませんが。
お父様はよほどギーズ公爵家と関わり合いになりたくないのでしょう。口には出しませんが、叔父様のギーズ公爵に苦手意識を持っているようですから。
もっとも、苦手にしているのは叔父様だけではありませんね。
既に引退なさっているものの、元公爵夫妻の祖父母にも苦手意識を持っているようですし。
ギーズ公爵家と疎遠になったのはそのせいもあるのかもしれません。
この時のお父様の判断。
私には大変都合の良いものでした。
けれど、お父様達にとっては最悪の選択だったのです。
ただし、それを知るのは少し先のこと。
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