第6話初めての列車2

 黙ったままの私に、何かを察したのか、ジャンヌはさらに追撃してきました。


『そもそも交渉の仕方もご存知ないのではありませんか?』

『……』

『お嬢様、それでは商人に値を安く吹っ掛けられてしまいます。最悪、宝石の価値を半分以下にされるでしょう』

『……そんなこと、ないはずよ。宝石は価値があるものだもの』

『価値があっても、知識がなければ利用されるだけです。商人に足元を見られて買い叩かれるのが想像できます』

『……』

『お嬢様は、交渉のイロハも知らずに、宝石を売って旅をしようと考えたのですか?』

『……』

『よろしいですか、お嬢様。世間はお嬢様が考えている以上に優しくも甘くもございません』

『……』


 く、悔しい。

 ジャンヌに言い負かされるなんて!

 ああ、でも、何も言い返せない自分が一番悔しいわ!

 やってみなければ分からないじゃない!

 そう言いたい。

 言えば倍になって返ってくるのは目に見えています。


『では、こうしましょう。お嬢様』

『ジャンヌ?』

『私も一緒に参ります』

『えっ?』


 はて?

 幻聴でしょうか?

 何やらおかしな言葉が聞こえてきました。

 

『私なら多少の旅の知恵はあります。お嬢様だけでは不安ですので、私もご同行いたします』


 どうやら幻聴ではなかったようです。


『何を言っているの……?』

『世間知らずのお嬢様では、屋敷から一歩出た瞬間に野垂れ死にすることでしょう』

『……』

『さすがに、それは私も避けたいのです』

『……』


 物凄く失礼なことを言われています。

 私が雇い主の娘だと知りながら、容赦のない言葉責めの数々。

 怒るべきでしょう。

 ここまで言われて怒らない者はいません。

 ですが……。


『何もできないお嬢様一人を野放しには出来ません。よろしいですね』


 こうして、押し切られてしまったのです。

 悔しいですが、ジャンヌが言っているように私は箱入りのようですしね。それは認めましょう。

 若干の反省をしつつ、私は口をつぐむのでした。

 ただ、この時、何も言い返さなかったのは正解でした。

 私が「自分は人よりも少し過保護に育てられてしまったのね」と、考えていましたが、ジャンヌからすれば「少し」ではなかったのです。

 とんでもないくらいに過保護に育て上げられていたのです。

 ジャンヌから見れば「異常」だったこと。


 私は知らなさ過ぎたのです。

 家のことも。

 家族のことも。

 国のことも。

 そして自分自身のことも。


 知っていると思っていました。

 一度目に知らなかったことは、二度目に知り。

 二度目に知らなかったことは、三度目に知り。

 三度目に知らなかったことは、四度目に知った。

 そう、思っていたのです。

 ですが、私が知ったことは、ほんの一部でしかなかったのです。

 根本的なものを、そうなる背景は単純なようで複雑だったこと。

 その複雑さは年数が経つにつれて糸のように絡まり合ってしまっていたことを、私は何も知らないでいたのです。

 私がを知るのは、かなり後になってからのこと。

 この時の私は、まだ知る由もありませんでした。

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