第5話初めての列車1
列車の窓から見る風景。
馬車とは違って、すごい速さで景色が通り過ぎていきます。
私達は一等客室の個室を借りて、そこで過ごしていました。
「お嬢様、列車の旅はいかがですか?」
「すごいわ。あんなに速くて……。それに景色も一瞬で変わっていくのね」
「喜んでいただき光栄です」
「ふふっ。ジャンヌもなんだか楽しそうよ」
「そうかもしれませんね」
ジャンヌは目を細め、穏やかに微笑んでいます。
表情の変化に乏しい彼女には、とても珍しい顔だったので少し驚いたのは内緒です。
「それにしても列車の中は意外と静かなのね?もっと騒がしいのかと思っていたわ」
駅では、人、人、人、で混み返していました。
まるでお祭りのような状態。
列車に乗る人達もまた多く……。
ジャンヌから「一等車の個室にしております」と説明はされていましたが、それでも不安でした。
列車の中も混雑しているのではないか……と。
まぁ、それは杞憂でしたが。
「一等車には裕福な層の方しか乗りませんから、比較的静かなのだと思われます」
「他は違うの?」
「はい、二等車、三等車になりますと、グレードも落ちますし、なによりも階層の違う方も多いので騒がしいかと」
「そう……」
「お嬢様は、列車に乗るのは初めてですか?」
「ええ。だから少し不安だったの。でも……思っていたよりも、快適だわ」
「それはようございました。では、何かお飲み物をご用意いたしましょう」
「ありがとう」
そうして紅茶の用意をするジャンヌを眺めながら、彼女が一緒にいてくれて良かった、と改めて思ったのです。
ジャンヌがいなければ、何もできなかったことでしょう。
きっとすぐに見つけられていたはずです。
家出を決行して見つかったのがジャンヌで運が良かったとしか言いようがありません。
見つかった時はかなり詰め寄られましたが。
『お嬢様、何をお考えなのですか。お嬢様おひとりで屋敷を出るなど不可能です』
『そんなことはないわ』
『屋敷を出てどこに行かれるおつもりですか?』
『国を出るのよ……』
『国を出る? ロラン王国を出るということですか?』
『そうよ……』
『出国なさってどうなさるのですか?何処の国に行かれるおつもりなのですか?行き先にあてはおありなのですか?』
『……』
『そもそも旅費はどうなさるのです?』
『……』
『お嬢様、まさか何も考えていらっしゃないのですか?』
『……』
『無言は肯定と捉えますがよろしいですか?』
『……』
『無謀すぎます。お嬢様はご自分が箱入りの中の箱入り娘だという自覚がなさすぎます』
怒涛の質問攻め。
そして、お説教と叱責。
無計画すぎると言われて、ムッとしました。
私だって何も考えていないわけではありません。
『無計画じゃないわ』
『ではどのようなご予定がおありなのですか?』
『宝石を売ればお金になるでしょう?』
私は宝石箱をジャンヌの前に差し出しました。
この中身はお母様の宝石類が入っています。
嫁ぐ際に持ってきたもので、それを私が相続したのです。
持ち運びやすい代物で、どちらかというと普段使いの宝飾品の数々。
『これを売れば十分ではないかしら?』
私が意気揚々と言えば、返ってきたのは深い溜息。
何故?
そこは「さすがです」とか「お嬢様のお考えは分かりました」と納得する場面でしょう。
どうして呆れた目を向けてくるのですか!
納得できません!
『お嬢様、お金だけの問題ではありません』
『旅費は必要だと言ったではないの』
『お嬢様……。それらを売れば、確かに、お金になるでしょう。ですが、お嬢様はどうやってそれらをお金に換えるおつもりですか?』
『えっ?それは……その……』
どうやってお金をと言われても……。
そう言えばどうやって換えるのかしら……?
前の時は、「宝飾品を売り払って借金を返した奥方がいるらしいわ」という話を聞いたことがあったから、宝飾品はお金になるとは知っていたけれど。
実際には売り払ったことなんてなかったし……。売る必要がなかったから……。
『まさかご存知ないとは仰いませんよね?』
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