第3話旅の準備2
「ねえ、ジャンヌ。宝石店を一ヶ所ではなく何ヶ所も回ったのは何故なの? 一店舗でまとめて売ってしまった方が楽な気がするのだけれど……」
「ああ、そのことですか」
「何か理由があるの?」
「簡単な話ですが、お嬢様の足取りを追わせないためです。時間稼ぎともいいますが」
「え?」
足取り?
時間稼ぎ?
「お嬢様が家を出られたことが露見すれば、当然、リブロー侯爵家は捜査をなさいます。旦那様は騎士団長を務めていらっしゃいますので人員を総動員するのは容易でしょう。そうなれば宝石類を売って当座の資金を手に入れたことがバレるのも早いかと思われます。捜査を撹乱するために宝石店を複数店にしておいたのです」
どうやら機転を利かせての行動だったようです。
ジャンヌが言うには「複数店を捜査するだけでも足止めにはなる」とのこと。
「後は、服装を変えるだけですね」
「服を……?」
「はい、ドレス姿では何かと目立ってしまいますので」
「そうかしら?」
指摘を受け、私は自分の服装を見直してみました。
う~~ん。
目立つかしら?
これ……。
パーティー用のドレスなら分かるのだけれど……。
私が着ているのは特別に目立つとは思えないもので。
華美すぎることもなく、地味すぎることもない。一般的な貴族令嬢が着る服なのですが。
「目立つことはないと思うけれど?」
「いいえ、お嬢様。この服装のまま旅をすれば貴族令嬢だとすぐにバレてしまいます。供には侍女の私しかおりませんので、ワケアリの貴族令嬢だと判断されるのでしょうし、そうなれば誘拐の危険もあります」
誘拐。
物騒な言葉がでてきました。
「でも、それは女二人旅になる以上は同じではないかしら?」
貴族令嬢云々の前に、女性が二人で旅をするだけでリスクは高まるものです。
危険具合では同じなのではないかしら?
そんな私の考えが表情に出ていたのでしょう。
ジャンヌは真剣な表情で私の顔を真っ直ぐに見詰めて言いました。
「ただのお金持ちの令嬢と貴族令嬢とでは、誘拐のリスクが違います」
「そうかしら?」
「どちらも危険なことに代わりませんが、危険具合ならば、圧倒的に貴族令嬢に軍配が上がります」
何の軍配でしょうか……。
不穏すぎるのですが。
困惑する私を横目に、ジャンヌの話は続きます。
「身代金目的の誘拐ならともかく、令嬢本人を目当てに誘拐する者もいます。この場合は、娼館に売り飛ばすのが目的ですが。元貴族令嬢は高級娼館では高値で売れます。それこそ、平民が一生働かなくてもいいくらいの金額で取引されます」
「え……?」
「娼館側もワケアリの令嬢なら親や親族が探さないことを見抜いていますので、通報するのは稀です」
「……」
「通報したところで、売り飛ばされた令嬢を迎えに来る貴族の家は少ないのが現実です。貴族の娘が誘拐されて娼館で発見されたなど、恥ですから。家の面子を保つために〝何もなかった〟とするのが大半です。この場合、娘をそのまま娼館に入れたまま密かに貴族籍を剥奪するものと、もうひとつ。一ヶ月以内に娘を他家に嫁がせて絶縁状態にする、というものです」
「……」
私は思わず絶句してしまいました。
娼館の話もそうですが、その後の展開も酷すぎます。
娘を守らない親は多いのでしょうか?
確かに貴族は面子にうるさいですが。
とはいえ、ジャンヌ顔は真剣そのもの。
冗談でも何でもなく、現実に〝そういう事件〟があったことを如実に語っていました。
なので、これは現実に起こったことなのでしょう。
その後もジャンヌの貴族令嬢では危ない理由に関する講義は続いたのでした。
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