12月26日
「今日、雪が降るらしいよ」
「どうりで……」
部屋の布団に包まった渚はそれでも小刻みに震えている。
「……えっ、雪っ!?」
バッと顔を上げた渚に束沙は頷く。
「いやでも寒いのは嫌だな……」
さらに身体を縮こまらせる渚に、ビニール袋から肉まんを取り出して渡す。
「温かいうちに食べようよ」
「え、マジ、神……?」
渚は嬉しそうに受け取る。
「あっちっ!」
「えっ、火傷しないでね……?」
「大丈夫!」
早速紙を剥がしてかぶりつく。
「あっつ……うま〜!」
満面の笑みで食べる渚を眺めながら束沙も自分の分を食べ始めた。
「あ〜うまかった。束沙、ありがと!」
「どういたしまして」
「……食べ終わったら寒くなってきた……」
渚は再び布団に包まる。
「コタツ使えねぇのキツ……束沙はホントど〜やって生きてんだよ……」
「事あるごとに身体を動かすかな。宿題の合間とか」
「あ〜っ!」
急に立ち上がった渚を見上げて、束沙は首を傾げる。
「……もしかして、宿題やってないの……?」
「宿題の存在忘れてたっ!」
渚は投げ捨てられていたリュックから教科書やら問題集やらを取り出す。
「うぉ……束沙……」
半涙目で見ると、束沙は微笑んで言う。
「どうしようかな〜。宿題をやってない渚が悪い気もするしな〜」
「うっ、……そりゃそうだけどさ〜」
少し拗ねたような渚を見て、息を吐くように笑う。
「ふっ……冗談だよ。一緒にやろう」
渚は束沙を拝むように手を合わせた。
「あ〜、なんでこんな多いんだよ〜」
渚は机に突っ伏す。
「来年には卒業だから、かな」
「……確かに、俺らもう3年になんのか」
渚は束沙を見上げる。
「やっぱ就職?」
「うん。早く自分だけで生活できるようになりたいから」
束沙は少し顔を顰めて答える。
「俺も就職かな〜。ま、どこ行くとかは全く考えてねぇけどな!」
「それは僕もだよ」
「だよな〜。……でも、俺はここに残りてぇかも」
渚は持っていたシャーペンをいじる。
「僕は…………」
途中で口を噤んだ束沙に、渚は首を傾げる。
「……僕のワガママだけど、言っていい?」
「俺と一緒にいたい、か?」
少し目を丸くした束沙にニッと笑う。
「束沙が言うワガママってのは大抵そんな感じだろ?ま、俺はワガママとは思わねぇけど」
少し得意気な顔をする渚に微笑む。本当は少し違うけれど、渚が示してくれる光が嬉しいから。
「で、宿題は進んでる?」
「うっ……」
顔を顰めた渚の隣に行き、束沙は問題集を覗いた。
「……そろそろ帰らないと」
束沙は自分のものを片付け、力尽きたような格好でいた渚も立ち上がって階下に降りる。和室を覗くと父親がパソコンに向かって話している。
「父さんの会議まだ終わんないのかよ……」
渚は小声で文句を言いながら手袋をする。
「使ってくれてるんだね」
「そりゃもちろん!」
束沙が扉を開けると、白い粉が少し入ってくる。
「うおっ!雪だ〜っ!」
渚は足を靴に突っ込み外に駆け出す。
「さむっ!……積もったら雪遊びしようぜ!」
「積もったら自転車使えないんだけど……」
「おぅ、じゃあ」
束沙に近づきニッと笑う。
「いつか、一緒に雪山に行こうぜ!約束な!」
そして拳を軽く前に出す。束沙は微笑んで拳を合わせた。
ある冬の日 Cris @sekieikurisutaru
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