第4話 双頭の龍

廃墟の上空で、光輝と千紗はかろうじて体勢を保っていた。ステータスボードが警告を発する。


【警告:エネルギー供給限界 - 残り10秒】


「もう持たない!」光輝が叫ぶ。彼の瞳に焦りが浮かぶ中、地上からは帝国軍の砲火が二人を狙っていた。


「あそこ!」千紗が指さす先に小さな路地があった。「あそこに降りて!」


「了解!」光輝が力を込めると、二人の落下速度が緩やかになる。ステータスボードの表示が赤く染まる。


【緊急省エネモード】

【全機能停止まで - 5……4…3……】


地表すれすれで千紗を投げ出し、光輝自身は地面に叩きつけられた。辛うじて受け身を取りながらも、肺から空気が押し出される。


【システムシャットダウン】


---


一方、基地内部。黒川雷斗は完全武装のクライヴ・ヴァンデルと対峙していた。周囲は静寂に包まれ、ヴァンデルの放つ圧倒的な存在感が空気を震わせる。


「よくぞここまで来たな、反逆者ども」ヴァンデルの声が冷たく響く。「だがお前の『予知』も、この領域では通用しない」


雷斗は警戒を強めた。ヴァンデルが右手を掲げる。稲妻を象った槍が不気味な光を放つ。


「さて、君の予知はどこまで見通せるかな?」ヴァンデルが嘲るように言った。「たとえば──」


その言葉が途切れた瞬間、雷斗の脳裏に鋭い痛みが走る。視界が二重に見える奇妙な感覚。そこに映るのは──空に浮かぶ少年の姿。


「誰だ……?」雷斗が無意識に問いかけた。


ヴァンデルの眉が僅かに動く。「ほう?お前も気づいたか」


---


瓦礫の中から這い上がった光輝は、突如として全身に電流が走る感覚を覚えた。ステータスボードが勝手に再起動し始める。


【緊急復旧:外部刺激検知】

【システム一部起動成功】


画面が明滅する中、光輝の視界に奇妙なビジョンが投影される。基地の司令室内で誰かがヴァンデルと対峙している姿だ。


「誰……?」光輝は自分の目に映る人物の正体を探ろうとする。


---


基地内。ヴァンデルがゆっくりと歩み寄る。「私の槍は『過去と未来を繋ぐ鍵』だ」彼は槍を軽く回転させた。「お前たちの時代を超えた繋がり──それがどれほど脆いか教えてやろう」


雷斗の手が震える。彼の「予知」が混乱していた。本来見ることができるはずの敵の動きが断片的になり、代わりに見知らぬ光景ばかりが流れ込んでくる。


空に浮かぶ少年。瓦礫の中から這い上がる少年。そして──自分が見たこともない風景で誰かと並んで立つ自分の姿。


「何だ……これは……」雷斗の額に脂汗が浮かぶ。


ヴァンデルの槍が紫色の光を放ち始める。「お前の予知能力も我が『雷霆の槍』の前では無力。だが……」彼は意味深な笑みを浮かべる。「面白いことに気づいた。お前の中には誰かの気配がある」


---


路地裏で光輝は息を整えながら、突然襲ってきた「繋がり」に戸惑っていた。ステータスボードに新たなメッセージが表示される。


【特殊通信チャネル開拓】

【未確認個体Aとの接続率 25%】


「誰なんだ……?」光輝が呟くと、まるで応えるかのように画像が変化する。司令室で苦しむ少年の姿が鮮明に映し出される。


そして微かな思念が頭に響いた。

(僕たちは……繋がっている?)


光輝は息を飲んだ。その考えは荒唐無稽だったが、なぜか腑に落ちる感覚があった。


「繋がり……?」光輝が小声で答えた。


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基地内でヴァンデルの槍が激しく唸り始める。室内の空気が歪み、時間の流れさえ止まったかのようだ。

「終わりだ、黒川雷斗」ヴァンデルが言い放つ瞬間—


---


光輝の頭に直接響く声。「避けろ!」


反射的に光輝は千紗を抱えて横に跳んだ。直後、彼らの立っていた場所を巨大な岩塊が貫いた。


「誰だ……?」光輝が混乱する中、ステータスボードに新たな通知が表示される。


【警告:未確認個体Aからの強制操作検知】

【干渉源特定困難】


司令室では雷斗が両手で頭を抱えていた。「今の声……誰に向けて……?」


ヴァンデルの槍から放たれた紫色の波動が基地全体を揺るがす。「お前たちの繋がり……確かに興味深い」彼は冷ややかに笑う。「だが今はここで終わりだ」

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