第3話 交差する運命

廃墟の屋上で光輝は硬直していた。ステータスボードに表示された「外部からの認証要求」の文字が脈打つように明滅する。


【認証コード送信元:不明】

【リスク評価:中~高】


「誰だ……?」光輝が呟いた瞬間、ボードが自動スクロールし始め、見たことのないメッセージが出現する。


【警告:予期せぬ干渉を確認】

【外部システムとの連携を試行中……】


その時、地下街全体を揺るがす轟音が響き渡った。帝国軍の増援部隊が到着したのだ。窓から見える光景に千紗が息を呑む。


「まずい……あの新型VTOLが五機も!」


---


一方、基地内部。黒川雷斗は司令室の瓦礫の中で片膝をついていた。彼の額には汗が滲み、瞳孔が不安定に揺れている。


「雷斗!大丈夫か?」副官が駆け寄る。


雷斗はゆっくりと首を横に振った。「まだ終わっていない……」


彼の脳裏には断片的なイメージが閃いていた。黒い外套を纏った少年が、何もない空中に指を滑らせている。その動作に合わせて、周囲の敵兵の動きが鈍くなる……


「誰だ……?君は一体……」雷斗が呟いた。


副官は困惑した様子で雷斗を見つめた。「何を言っているんだ?」


---


「光輝くん!見えた?あっちにも!」

千紗の声で我に返った光輝が窓の外を見ると、帝国軍のVTOLが更に三機、低空飛行で接近していた。


「全方向から封鎖するつもりだ」光輝が状況を分析する。

彼はステータスボードを開くと、ある決断を下した。


【スキル選択】

8. 情報遮断Ⅰ(索敵妨害):消費20pt


残りポイントはわずかだが、この状況を打破するには必要不可欠だった。スキルを選択した瞬間、光輝の周囲に薄い青白い靄が立ち込める。


「何をしてるの?」千紗が尋ねる。

「味方の位置を誤認させる技だ。うまくいけば時間稼ぎになる」


雷斗は混乱したまま立ち上がり、指揮所へと急いだ。頭の中のイメージが鮮明になってくる。少年の手が触れた空間から、見えない波動のようなものが広がっている—


「これは……シールドか?」雷斗が呟いたその時、基地の監視システムに異常が発生。画面がノイズに覆われる。


通信機から副官の声が聞こえた。「雷斗!敵の位置情報を受信できない!システム障害だ!」


雷斗の目が大きく見開かれた。「まさか……」


---


地上では光輝の仕掛けた「情報遮断」が効果を発揮し始めていた。帝国軍のVTOLのディスプレイに「ERROR」の文字が点滅し、操縦士たちが混乱する。


「雷斗の動きが鈍くなった」光輝がステータスボードに表示された敵部隊の進軍速度低下を確認する。

「急いで撤退しよう!」千紗が促す。


二人が非常階段へ向かおうとしたその瞬間、ステータスボードに新たな警告が表示された。


【緊急通知:高位危険個体接近】

【識別:ブランザ帝国第十三師団長 クライヴ・ヴァンデル】


光輝の背筋に冷たいものが走る。この男の名前は歴史教科書でも有名だった。帝国最強の将校と呼ばれ、かつて「雷光帝国」の末裔を根絶やしにした張本人だ。


「千紗、もっと急ごう」光輝の声に緊張が混じる。


---


基地内部では雷斗が新たな予知を見ていた。黒装束の少年が巨大な刀を持つ男と対峙している—


「ヴァンデル……来るのか!」雷斗が叫ぶ。

彼は即座に通信機を取り、「全員、撤退だ!今すぐだ!」


副官が驚愕する。「まだ戦闘は—」

「時間が無い!信じてくれ!」


---


地下街の出口に差し掛かった光輝と千紗。背後で爆発音が響き、建物が崩れ始める。千紗が足を滑らせ、瓦礫に飲み込まれそうになった。


「危ない!」

咄嗟に光輝が飛び出し、千紗の腕を掴む。二人の体は宙に浮いたが、光輝はステータスボードを見た。


【緊急時スキル解放】

9. 空中姿勢制御(一時的飛翔能力):消費30pt


迷っている暇はない。光輝は最後のポイントを使い切り、千紗とともに空へと舞い上がった。


眼下では基地が完全に包囲されつつあった。そして最も高い建物の頂上に、一人の男が立っている。銀色の甲冑を纏い、右手には稲妻を象った槍を持ったその男こそ—


「クライヴ・ヴァンデル……」光輝が呟く。


男の視線が僅かに上を向き、一瞬だけ光輝と目が合ったような気がした。ヴァンデルの唇が微かに動く。


「なるほど……お前か」


---


その時、雷斗の脳裏にも同じビジョンが閃いた。彼は司令室の窓辺に立ち、視線を空へと向ける。


「待ってくれ……君は誰なんだ?」雷斗が虚空に向かって呼びかけた。


答えはなかったが、代わりに奇妙な共鳴感が二人を結びつけた。まるで見えない糸が張り詰めたかのように。

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