第27話「約束を果たす時」

 あれから、いろいろとアトラクションを回った。

 佐奈ちゃんは幼いからか、好奇心旺盛おうせいで、怖がることもなく次々とアトラクションに乗っていく。

 車の中で充電した分、大はしゃぎでめいいっぱい遊園地を楽しむと――日が暮れる頃には、また電池が切れたように眠りについてしまった。


 そう――佐奈ちゃんが楽しみにしていた、打ち上げ花火を前にして……。


「佐奈ちゃん、起きないともう花火が打ち上げられちゃうよ?」

「すぅ……すぅ……」


 何度起こそうとしても、佐奈ちゃんはご覧のありさまだった。

 とても元気よく楽しんでいたので、体力を使い果たしてしまったのだろう。


「そうなってしまっては、もう起きないと思いますよ?」

「まじか……。佐奈ちゃんが花火を見たいって言ったから、日が暮れるまで残ったのに……」


 仕方がなさそうに笑う美鈴ちゃんに対し、俺は苦笑を返してしまう。

 実際、この子が花火を見たいと言わなければ、俺も彼女も日が暮れる前に帰っていた。

 だけど、いつものように幼い子のお願いを断われず、こうして残ったわけなのだが……まぁ、仕方がないか。


「それじゃあ、帰る? 今ならまだそこまで混んではいないだろうし、花火を見てからだと大渋滞に巻き込まれるかもだから」


 花火目的の人は多いようで、日が暮れたというのに遊園地内には沢山の人がいる。

 花火が終わると、この人数が一斉に移動をするということなので、帰るのも一苦労になってしまうだろう。


 だから、今のうちに帰るかってことを聞いたのだけど――

「…………」

 ――なぜか、美鈴ちゃんからはジト目を向けられてしまった。


 なんなら、心なし頬が小さく膨らんでいる気がしなくもない。


「え、えっと……?」

「白崎さんは、相変わらずですね?」

「何が……?」

「どん――なんでもないです」


 明らかに何かありそうな様子で、プイッとソッポを向く美鈴ちゃん。

 言葉と態度が合っていない気がするんですが、それは……?


 ――と聞こうものなら、多分怒らせてしまうやつだ。


「花火、見たかったんだね。じゃあ、ちょっと残っていこうか」


 このタイミングで文句がありそうってことは、佐奈ちゃんだけでなく、彼女自身も花火が見たかったんだろう。

 学生時代を思い返せば、彼女は綺麗なものが大好きだった。

 となれば、花火を見ていきたいと思うのも不思議ではない。


「やっぱり、相変わらず……」


 しかし、美鈴ちゃんはまだ不満な様子だった。


 うん、何が気に入らないのかよくわからない。

 昔は、こんな気難しい子じゃなかったんだけどなぁ……。


 いつも、ニコニコとしていたし……。


 そう戸惑っていると――ドンッという大きな音と共に、光の華が夜空に咲く。

 それはとめどなく次々と打ち上げられ、半ば無意識に視線が吸い寄せられた。


「綺麗……」

「そうだね」


 独り言のように呟かれた美鈴ちゃんの言葉に、俺は笑顔で頷いておく。


 花火を見るなんていつぶりだろうか?

 社会人になってからはめっきり見る機会がなかったし、学生の頃だってあまり縁がなかったかもしれない。


 小学生の頃に、親に連れられて朱莉と一緒に行っていた祭りが、最後な気がする。


 そういえば、高校時代確か――


「――高校時代……結局、遊園地に行くことはできなかったのに……まさか、別れた後に、こうして大人になってから一緒に来ることになるなんて……思いもよりませんでした……」


 昔のことを思い浮かべていると、思考がシンクロしたのか、俺が思い浮かべたのと似たようなことを美鈴ちゃんが呟いた。

 思わず視線を向けてみると、懐かしそうな――そして、寂しさを含んでいるようにも見える、はかなげな笑みを彼女は浮かべていた。


『結局』――その言葉は、俺に対する責めの意味が含まれているのかもしれない。


 彼女と付き合っていた時、俺たちは遊園地に行く約束をしていた。


 だけど、その約束を果たす前に……俺たちは、別れてしまったのだ。

 十年ぶりに約束を果たす日が来るなんて……確かに、考えもしなかった。

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