第25話「やらかし」

「――佐奈ちゃん、着いたよ。起きて」


 幼い子向けとして選んだおもちゃの国の遊園地に着くと、俺はチャイルドシートで気持ちよさそうに寝ていた佐奈ちゃんの肩を、優しくトンットンッと叩く。


 すると――。


「当たり前のように、親がすることをされましたね……」

「えっ? あっ……」


 佐奈ちゃんを起こそうとしている俺に対して、美鈴ちゃんが苦笑してきた。

 確かにこういうのは、母親である彼女の役目だったかもしれない。

 なんとなく、運転もしてもらったし、俺が起こしたほうがいいのかなぁと思ってやったんだけど……さすがに、まずかったかもしれない。


「んっ……」


 俺が固まる中、弱くとはいえ刺激を与えられた佐奈ちゃんが、ゆっくりと目を開く――いや、開きかける。

 どうやら意識が覚醒し始めたようだ。


 しかし、開きかけた目が開くことはない。

 まだ意識覚醒には足りないようだ。


「佐奈ちゃん、起きれる?」

「んっ……ねんね……」


 声をかけると佐奈ちゃんは首を小さく横に振り、またもや頭をチャイルドシートに預けてしまう。

 完全に、眠気に負けてしまったようだ。


「遊園地に着いたよ?」

「んっ……?」


 このまま寝られてしまうとなんのために来たのかわからないため、俺はこの子が楽しみにしていた遊園地を持ち出すことで、なんとか起きてもらおうとする。


「ゆう、えんち……?」


 狙い通り佐奈ちゃんは遊園地に反応し、眠たそうにしたままも両手の甲で目を優しく擦る。

 頑張って起きようとしているようだ。


「遊園地に来たかったんだよね? 着いたよ?」

「んっ……」


 俺はチャイルドシートのベルトを外し、佐奈ちゃんを抱っこした。


 すると――

「あっ……」

 ――美鈴ちゃんが、『こいつ、やらかした……』とでも言わんばかりの声を漏らす。


「な、何かまずかったかな?」

「まずいも何も……今抱っこしてしまうと……ほら……」


 美鈴ちゃんは、俺の腕に抱っこされ、俺の肩に顔を預けてきた佐奈ちゃんを指さす。


 そんな佐奈ちゃんは――

「すぅ……すぅ……」

 ――とても気持ちが良さそうに、寝息を立て始めた。


「寝ちゃった……」

「当然です」


 眠気と闘っている状態で抱っこなんてしたら、寝るのは当たり前だろ。

 と言わんばかりの美鈴ちゃんの苦笑に俺は……苦笑いを返すしか、できないのだった。


 なお、そのあとは入園券を買い、中に入っている間に声をかけ続けることで、なんとか佐奈ちゃんを起こすことに成功するのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る