第24話「物言いたげな目」
「――すぅ……すぅ……」
「あれ、佐奈ちゃん寝ちゃった?」
車が動き出してすぐのこと。
後部座席からかわいらしい寝息が聞こえてきたので振り返ると、佐奈ちゃんがチャイルドシートに頭を預けながら眠りについていた。
あれだけはしゃいでいたのに、またもや突然電池が切れたように静かだ。
「幼い子は車に乗るとすぐ眠ってしまうんですよね。まぁ遊園地ではしゃぐでしょうし、充電をしているとも言えますが」
美鈴ちゃんはもう慣れたものらしく、前を向いた状態で運転をしながら、仕方がなさそうに優しい笑みを浮かべる。
そんな彼女の横顔は、もう立派な母親という感じだった。
高校を卒業してからは完全に疎遠になっていたけれど、俺にいろいろあったように、彼女もいろいろあったのだろう。
彼女を幸せにできなかった身としては、今の彼女が幸せであってくれるのであれば、それでいいと思った。
「あの子に懐かれて、大変ですか?」
「えっ?」
寂しくはあったり、ショックな部分があったりはすれど、幸せそうな彼女の横顔を見られて少しホッとしていると、美鈴ちゃんが思いがけないことを尋ねてきた。
「教員としてのお仕事は大変でしょうし、せっかくのお休みを佐奈の遊び相手で使われているでしょう? あなたは昔から、本心を顔に出さないところがありますからね、実際どう思っておられるんですか?」
美鈴ちゃんは一瞬だけ、チラッと俺に視線を向けてくる。
本心を顔に出さない……?
いや、そんなことはなかったはずだけど……。
嬉しい時は嬉しい顔をしていたと思うし、楽しい時も楽しい顔をしていた。
もちろん、嫌なことがあった時や怒った時にそのまま顔に出してたかって言えば、出してなかったと思うけど――そもそも、高校時代美鈴ちゃん相手にそんな感情を抱いたことがなかった。
学校でも……まぁ、ケースバイケースだけど、それほど嫌な感情を抱くことはなかったはずだし……なんで美鈴ちゃんは、そんな勘違いをしているんだろう?
――と、気になりはするが、俺は切り替えて笑みを浮かべる。
「佐奈ちゃんはかわいいし、あんな幼い子に甘えられて嬉しくないはずがないよ。俺は妹もいなかったし、かわいい妹ができたみたいで楽しいんだ」
美鈴ちゃんは優しくて気遣いができる子なので、娘の遊び相手をさせていることに申し訳なさがあるんだろう。
そう思った俺は、彼女が気にしないように明るい言葉を選んで伝えてみた。
実際は、妹というより娘という感覚に近いのだけど、さすがにまずいと思って妹ということにさせてもらった。
しかし、ちょうど信号待ちとなると――
「妹……年齢的に、無理がありすぎません……?」
――美鈴ちゃんは、とても物言いたげな目を俺に向けてくる。
彼女が言わんとすることはわかる。
わかるけど――母親相手に、『娘みたい』なんて言えるはずがないでしょ……?
と、俺は思わずにいられなかった。
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