第23話「さすが母親(?)」

 遊園地に行くなら車で行くのがいい――ということで、俺が暮らしているマンションの駐車場に向かおうとしていたのだけど、佐奈ちゃんはチャイルドシートが必要とのことで、美鈴ちゃんの車で向かうことになった。


 わざわざ家に連れて行くということは、旦那さんにきっちりと話が通っているもしくは、休日でも仕事がある人なのだろう。


 旦那さんが出てきたら何を言おう……と考えながら彼女の家に着くと、佐奈ちゃんの声が聞こえたのか、窓から『いい御身分ですね?』とでも言いたげな上条さんが意地の悪い笑みを浮かべていた。

 いつものことながら、俺にはどうしようもないことなのに。


 むしろ、彼女こそ佐奈ちゃんを連れて遊園地に行けばいいのに……と思った。


「――助手席ではなく、後部座席に座られるんですね?」


 佐奈ちゃんを後部座席に備え付けられたチャイルドシートに座らせた後、俺が回り込んでもう片方の後部座席に座ろうとドアに手を掛けると、何やら物言いたげに美鈴ちゃんが俺の顔を見てきた。

 しかも、わざわざ助手席側に来てるあたり、文句がありそうだ。


「あっ……保険の関係で運転は無理かと思ったんだけど、俺が運転しても問題ない保険なんだったら、俺がするよ?」


 責められてるように感じた俺は、慌てて笑みを浮かべて運転することを主張する。


 しかし――

「私は、助手席ではなく、と言ったんですが?」

 ――誰も運転しろなんて言っていない、という感じの意味を込めた言葉を返された。


 確かにそれはそうなんだけど……いや、うん。

 運転のことじゃないなら、なんで責められないといけないんだ……!?


 まじで責められている理由がわからなかった俺は、驚愕を隠せない。


「まぁ、そんなに佐奈の横がいいなら、それでかまいませんが」


 ――と、全然それでよくなさそうな美鈴ちゃんが運転席側に戻っていく。


 これはあれか?

 自分の娘にベタベタするなとか、距離感をもう少し考えろ、ということなのか?


 まぁ……いくら懐かれているとはいっても、本当にベッタリくっつかれている感じだから、美鈴ちゃんの言いたいこともわかる。


 とりあえず、佐奈ちゃんの隣に座るのは美鈴ちゃんが気に入らないというのはわかったので、俺は助手席に座ることにした。


 ――うん、凄く気まずいけど。

 だから後部座席に座ろうとしたんだよな……。


「佐奈、遊園地まで少しだけ待っていてね? 遊園地に着いたら沢山遊べるから」

「んっ……!」


 俺が隣に座らないと佐奈ちゃんは文句を言うかな、と思ったけれど、遊園地のことで頭がいっぱいらしく、むしろ車に乗ってすぐに声をかけた美鈴ちゃんの言葉でとてもご機嫌そうだった。

 俺としては、佐奈ちゃんがここでこそ我が儘を言ってくれたほうが助かったんだけど――世の中、思うようにいかないものだ。

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