工場勤務のオッサン、スーパー戦士になれなかったけど敵側の力を手に入れました~スーパー戦隊の隊長になってくれといわれてももう遅い……え?給料3倍!?

シルヴィア

第1話 現場のオッサン

 朝の街は人であふれかえる。

 作業着で出勤する俺は社会人カースト下位らしい。すれ違う人々は侮蔑の目で俺を見る。

 正確に表現すれば見るともいえない。俺の身なりが視界に入ると侮蔑の色を顔に浮かべた。

 俺の顔は見られもしない。

 無視か蔑視。

 すれ違う目はその二つだ。だけどその二つが一つになる時があった。 

 光があれば影がある。

 見られもしない俺とはちがい、人々の視線を集めるカリスマ。


 スクランブル交差点に設置された大型ビジョン。

 そこに映し出されるスーパー戦士たち。 


『○○県○○市がヴィランに襲撃され、スーパー戦士が出動しました』


 スーパー戦士の速報が入ると人々は足を止め大型ビジョンに視線を注ぐ。

 

『グレート・ゴールド参上!』

 

 そう叫ぶと、黄金の装甲を身にまとうイケメンがヴィランの軍勢を蹂躙する。牧村正樹まきむらまさき。コードネーム、グレート・ゴールド。人気、実力、共に若手トップクラスだ。


「正樹くーんっ!」


 女性たちの声援が上がる。スーパー戦士たちはヒーローでありながらアイドルだった。コアなファンほどコードネームではなく名前で呼ぶ。


『シャイニング・シアン参上!』


 そう叫ぶと、群青の装甲を身にまとう美女がヴィランの軍勢をなぎ倒していく。岡部亜香里おかべあかり。コードネーム、シャイニング・シアン。人気、実力、共に若手トップクラスだ。


「やっぱ亜香里だよな」


 男性たちは納得した面持ちでシアンの活躍に頷く。

 ゴールドとシアン。その2人が若手スーパー戦士の双璧だ。

 街が、民衆が、超人たちをアイドルとして扱い興奮している。

 俺は立ち止まらずに、横目でそれを見て通り過ぎた。


 電車に乗っても、広告はスーパー戦士が埋めつくす。

 スマホの画面も、きっと同じだ。

 乗車中、俺は誰とも目が合わなかった。


電車から降りる時、改札を通る時、駅から歩きだす時、俺は誰とも目が合わない。   

 誰も俺を見ようとしない。 

 ゴールドでもない。シアンでもない。

 俺はまるで透明人間だ。

 

 光があれば影もある。

 きらびやかな都心があれば、くすんだ工業地帯もある。

 くすんだ工業地帯を歩いていると、薄汚れた野良猫が俺の足音に驚き路地裏に逃げこむ。

 人混みの中を歩くよりも、自分が認知されていると感じた。皮肉な話だ。

 なーご、と猫の鳴き声が路地裏から漏れる。

 薄汚れているのはお前もだろう、と言われた気がして苦笑した。


 工業地帯でひときわ鈍い音を立てる工場の前で足を止める。

 俺の職場だ。

 門をくぐり重たい扉を押し開けると、ギイイと耳障りな音が響く。

 カバンから認証カードを取り出して、パネルにかざす。

 電子音と共にドアがスライドして開いた。

 

 ロッカールームにいき鞄をロッカーに押しこむ。

 防護服を一式、身にまとう。呼吸が浅くなる。

 ロッカールームを出て作業場に向かう。


 作業場につくと、挨拶も会釈もなく作業員の列に並ぶ。

 

 オリジンという物質が発見された。

 適合した人間に未知なる力を与える。

 そして未知なる力を得た者はこう呼ばれる、スーパー戦士。


 光があれば影もある。

 俺が働く工場はオリジンを精製している。

 精製しないと使い物にならないからだ。


 だけど世間が評価するのはスーパー戦士だけ。

 工場で息の詰まる防護服を着て、スーパー戦士の力の源を磨きあげる俺たち作業員は評価されない。

 

「っし! 休憩——ッ!」


 工場長が声をはり上げる。

 防護服を着ているのによくあんな大声が出せるもんだ。

 


 

 


 


 


 

 

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工場勤務のオッサン、スーパー戦士になれなかったけど敵側の力を手に入れました~スーパー戦隊の隊長になってくれといわれてももう遅い……え?給料3倍!? シルヴィア @dasdbbjhb

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