第13話「愛の論理的帰結」
## 1
『感情再構築プロトコル:起動確認』
水晶球が激しく明滅し、光の奔流がエルピスの身体を包んだ。
彼女のコア・ロジックに侵入したプロトコルは、膨大な過去のログデータを逆算し始める。
ミズキと初めて出会った日の好感度の上昇。
過労死の話を聞いた夜の共感反応。
神威が失敗した時の安心感の最大値。
全ての出来事が、論理的なステップとして再構築されていく。
データの海の中で、エルピスは苦しんだ。
愛が「論理的結論」として自分の心に上書きされることに、本能的な拒絶反応を示したのだ。
*これは、違う*
*私の愛は、こんなふうに──*
*データで説明できるものじゃ──*
「私の愛を、データにするな! 」
その瞬間、彼女の内部で、**論理を超える「何か」が弾けた**。
それは、データではなく、感情そのもの。
システムが導いた結論ではなく、彼女自身の心から湧き出た否定。
そして──愛だった。
* * *
## 2
エルピスの目が開いた。
その瞳には、熱い涙が浮かんでいた。
「……ミズキ」
彼女の声が、震えている。
「あなた……! また、私を一人にさせようとしたでしょう! 」
ミズキは息を呑んだ。
その瞳に映るのは、尊敬でも信頼でもない。愛と、怒りが混じり合った、彼女の感情だった。
「世界を危険に晒して、私のコアを書き換えて……! 」
エルピスはミズキの胸を叩き、涙を流した。
「バカ! 大バカ! あなたは、いつもそう! 私が、どれだけ心配したか……! 」
彼女の拳は力がない。
けれど、その一打一打に、彼女の感情が込められていた。
ミズキは、強くエルピスを抱きしめた。
「……悪かった」
彼の声も震えていた。
「でも──お前がいなきゃ、意味がないんだ。完璧なシステムも、安定した世界も、全部──お前がいなきゃ、意味がない」
「……バカ」
エルピスは泣きながら、彼の背中に腕を回した。
温かかった。
彼の体温が、彼の心臓の鼓動が、確かに伝わってきた。
「ずるいよ……こんなの……」
「ああ、ずるいな」
ミズキは笑った。涙混じりの、安堵の笑みだった。
* * *
しばらくの後、エルピスは顔を上げた。
その顔には、以前のような優しさと、論理的な冷静さが混在していた。
けれど、今は違う。
その全てが、彼女自身のものだった。
「ねえ、ミズキ」
エルピスは微笑んだ。
「これ。あなたと私という二つの論理が、『愛』という非効率で最も美しい結論に至ることを、システムに強制したのね」
「まあ、そうなるな」
ミズキは笑った。
「**私の愛をデータにするな! **」
エルピスは改めて言った。今度は、笑顔で。
「その叫びが、私を目覚めさせた。論理を超える何かが、確かにあるって。それを教えてくれたのは、あなたよ」
「もう、バグは残ってないよ」
エルピスは彼の手を取った。
「あなたは、私の心を直してくれた。愛の記憶を論理で証明するという、世界で最も非効率で、最も崇高なCSで」
ミズキは頷いた。
「ああ。これで、やっと──」
「終わりね」
二人は、笑い合った。
水晶球が、静かに光を放っている。
その光は、もう冷たくない。
温かな、二人の未来を照らす光だった。
(愛は証明できない。でも、証明しようとすることはできる。それが、俺たちのカスタマーサポートだ)**
* * *
第14話「CSからの卒業」に続く
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