エピローグ
春の午後。
街は柔らかな光で満ちていた。
風がビルの谷間を抜けて、
淡い花びらをふたりの肩へ運んでくる。
「もう何年経ったんだろうね」
リリィが小さく笑う。
「たぶん、三年?」
クレアが少し首を傾げながら答える。
「でも、不思議。全部昨日のことみたい。」
駅の広場。
あの日、抱きしめ合った場所と同じ景色。
けれど今は、光が違う。
ふたりの間に流れる空気は、
あの頃よりも穏やかで、やさしい。
「ねぇ、クレア」
「うん?」
「この街、少し変わったね」
「そうだね。でも……君の笑い方は変わらないよ」
リリィが照れたように笑い、
クレアの手をそっと握る。
それだけで、心の奥があたたかくなる。
ふたりの影が、春の陽射しの中で並んで伸びる。
通りを歩く人々のざわめき。
信号の音。
遠くから聞こえる子どもの笑い声。
すべてが、心地いい。
「ねぇ、行こうか」
「うん」
ふたりが歩き出したその瞬間。
通りの反対側に、
ひとりの少女が立っていた。
春風に髪を揺らしながら、
何かを探すようにふたりの姿を見つめている。
その瞳には、懐かしさのような光が宿っていた。
でも、クレアもリリィも気づかない。
少女は微笑んで、
手にしていたスケッチブックを胸に抱いた。
ページの隅には、
ふたりが並んで歩く姿が描かれている。
――その物語の続きは、まだ誰も知らない。
街を包む風が少し強く吹いて、
花びらが一面に舞い上がる。
ふたりの笑い声とともに、
新しい季節の匂いが広がっていった。
春の光の向こうで、また物語が始まる。
あとがき
この物語は、静けさの中にある心の鼓動を形にしたものです。
クレアとリリィの歩幅は違っても、ふたりが見ている光は同じ。
そしてその光が、読む人の心にも少しでも灯れば嬉しい。
希望の始まり 白狐 @byak1005
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます