第七話 組織

 夜の二十時。恵美の部屋で小さなお茶会が開かれていた。中央のテーブルの席についているのは、恵美と陽子、そして服を着た天明。天明を除く二人は、ラベンダーのハーブティーに心を落ち着かせていた。




「落ち着きますわね、恵美様」




「ええ。陽子ちゃん、またお茶の淹れ方が上達したんじゃないかしら?」 




「嬉しいお言葉、感謝致します!」




「あら? 天明さん、お飲みにならないの? 就寝前のハーブティーは、グッスリと眠れるわよ」




「悪いが俺は豆派だ。葉っぱを馴染ませた茶なんか、死んでも飲まないね」




 その天明の言葉は、彼女が椅子に座る姿勢と同じくらいに遠慮がないものであった。簡易的なお茶会といえど、お茶会という場では最低限のマナーと品格を持っていなければいけない。




 そんな事などお構いなしに、天明は背もたれにドッシリと背中を預け、椅子に乗せた片足に肘を掛けている。ある意味で椅子という物を最大限に活用した座り方であるが、優雅とはかけ離れた姿であった。




「もう、天明さんったら。まだイジけていらっしゃるのですか?」




「当分コーヒーが飲めないと知れば、イジけたくもなるさ。アンタら基準で例えるなら、紅茶の代わりにコーヒー飲まされるようなもんだ」




「それは深刻ですわね……でしたら、頑張って点数を稼ぐしかありませんわね!」




「点数? テストのか?」




「それもありますけど……良い機会ですし、花畑女学園について少しお話いたしましょう。陽子ちゃんが言った点数とは、組織に貢献すると得られるものです。花畑女学園には三つの組織があり【カーネーション】【ヒマワリ】【ローゼル】の三つ」




「どれも花の名前なんですよ!」




「なんだか幼稚園のクラス分けみたいだな」




「確かに、組織の名前だけを聞けば、可愛らしい印象を覚えますよね。ですが、実際は可愛らしさとは程遠い。本当に、嫌になるくらい……」




 組織内、組織間で起こるあれやこれやに、恵美の心はたちまち嫌な気持ちで埋め尽くされそうになった。しかし説明をすると言った手前、個人的な事で不平等に説明する訳にはいかなかった。幸い、リラックス効果のあるハーブティーがカップに残っていた為、その香りで落ち着きを取り戻せた。




「ここ花畑女学園では、三つの組織によって管理されています。組織に就く一般生は代表の言葉に従わなければいけない。カーネーションは規則正しく。ヒマワリは崇拝。ローゼルは目新しさを」 




「なんか胡散臭いな……組織って言っても、ただの囲いだろ?」




「そこで、先程陽子ちゃんが言った点数が絡んでくるんです。組織は平等な勢力ではありません。現在はローゼルが七割、カーネーションが二割、ヒマワリが一割、となっております。点数は様々な事から稼ぐ事が可能で、その合計値でこの島を管理する領域が分配されます」




「待てよ。それじゃあ、ローゼルって組織がほとんど幅利かせてるじゃねぇか」




「そうなんです。しかも、現在のローゼル代表は、この学園に入学した直後から代表になられたお方で、瞬く間に組織を拡大させた方なんですよ。ただ……」




「ただ?」




「その……凄く、変わったお方なんです。凄いお力をお持ちになられてるお方なのに、妙な事で権力を行使したかと思えば、次の日には忘れたかのように廃止されて」




「それに、誰も彼女の本当の名前を知らない。どんな人かも知らない。でも綴られる言葉には人を従わせる魔力があり、その神秘性に惹かれてローゼルに就く一般生は珍しくない」




「もうすぐ、代表者のお三方が今季のスピーチをなさる日ですわ。今季も、ローゼルの代表のお方は手紙だけなのでしょうか?」




「でしょうね。それより危惧すべきは、私達カーネーションの現状です。ヒマワリの代表の誠様の人気は日に日に増しています。このままいけば、カーネーションは間違いなく組織から外れてしまう」




「三つの組織が、二つになるという事ですか!? そんな事―――」




「今まで無かった。だからこそ、今回も防がなければいけない。花畑女学園の歴史に汚点を作るのは、あってはいけない事よ」




 深刻な現状に不安と決意が入り混じる恵美と、悪い未来しか見えずにいる陽子。代表の妹と、ただの一般生の気持ちの差である。仮に恵美がカーネーションの代表と血が繋がっていなければ、陽子同様、現状を覆す未来は見えなかっただろう。




 そんな殺伐とした空気が張り詰める部屋で、天明は声が混じったため息を吐くと、気だるげに呟いた。




「めんどくさ」

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