ゲームブック教科書
ちびまるフォイ
ゲームブックは身にならない
「では、前の席の人はこのゲームブック教科書を後ろに回してください」
教室の自分の机には辞書ほどの分厚い本。
軽く開くと、ページ数とは別で各ページに番号が振られている。
「これからテストを始めます。
この教科書をクリアできればテスト合格。
そうでなければ不合格で補修です」
「げっ」
「時間は60分です。はじめ」
一斉にクラスメートが分厚い教科書を開いた。
自分も最初のページを開く。
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あなたは洞窟で目が覚める。
足元には火が焚かれている。
あなたが取るべき行動は?
土器を焼く → 32番へ
炎で狩りをする → 12番へ
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「……まずは食料の調達が必要だろうし、狩りか?」
12番のページに行くと、GAMEOVERと書かれていた。
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GAMEOVER
ここは縄文時代です。
まずは土器を焼かないと話になりません。
1番へ戻る。
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「くそ、またやり直しか!」
1番へ戻ってから、12番へと進む。
タイムロスしてしまった。
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村が栄えて邪馬台国になりました。
村の長をどうやってきめますか?
村人の多数決 → 41番へ
話し合い → 45番へ
占い → 21番へ
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「ええ……? どれだろう……。
邪馬台国ってたしか卑弥呼だったはず。
んで、卑弥呼は占い上手だったから……」
45番に移動する。
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GAMEOVER
占いで決めるわけ無いでしょう。
1番へ戻る。
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「またかい!!」
また振り出しに戻る。
もはやルートを暗記すらしてしまいそう。
「毎回毎回、最初から戻されるのか……。
そうだ。最初から全部の答えのページに行こう!」
ゲームブック教科書の選択肢は多くとも3つか4つ。
進む先の番号をメモしておいて、すべてのページを開けばいい。
ゲームオーバーじゃないページが見つかったら、
そのまま進めば間違うこともない。完璧だ。
「俺って頭いい! ようし一気に攻略だ!」
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1192年、幕府が誕生しました。
どういう名前の幕府でしょうか?
鎌倉 → 56番へ
室町 → 78番へ
β版 → 66番へ
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「全部わからないけど、番号を控えておこう」
手元の紙に移動先を全部メモして順次ページを開いていく。
正解のページがあればそのまま進む。
完璧な作戦のはずだった。
チャイムが鳴るまでは。
「はい、ではテスト終了。自分が到達したページ数を教えて下さい」
「うそ!? ぜんぜん進めてない!!」
みんな終盤のページ数を申告する。
自分だけは序盤も序盤。
「なんだお前、ぜんぜん進んでないじゃないか」
「あは、あはは……」
「補修!!」
「そんなぁ!!」
選択肢を総あたりする方法なら確実に正解を見つけられる。
だが、それが一番回り道で時間がかかることに気づけなかった。
最後のページにたどり着けなかった自分は、
俗称・お仕置き部屋と呼ばれる補修室へと軟禁される。
「先生もまさか補修がでるとは思わなかった。
お前のバカさは折り紙つきのようだ。そこで、だ」
先生はさっきよりも分厚いゲームブック教科書を積んだ。
「このゲームブック教科書をクリアするまで、家には帰さない」
「さっきのでもクリアできなかったのに!?」
「いっておくが、選択肢を総当たりなんて考えないほうが良いぞ」
「ぎくっ」
「それをやっていると、お前が補修室から出られるのは1週間後だ」
「死んじゃいますって!」
「温かい布団で寝て、ご飯を食べたければ、教科書をクリアすることだな」
「こんな現代のデスゲームが許されるんですか……」
先生は補修室に鍵を締めて逃げられないようにした。
窓には鉄格子がかけられている。
自分に残された選択肢はゲームブック教科書の攻略しか無い。
でもまるでその未来が見えない。
「普通に回答しても周り道ばかりで先に進めないから、
結局、総あたりで進むのと変わらないじゃないか」
ちょっと問題を解いても、答えが間違えてまたページを戻る。
それを何度も繰り返すのでちっとも終盤へと進めない。
自分が次の飯にありつけるのはいったい何時間後になるのか。
「ああ、もうダメだ。頭痛くなってきた……」
広辞苑ほどの厚みのあるゲームブック教科書を枕にしてしまう。
このまま補修室でゆるやかな死を迎えるのだろうか。
限界まで追い詰められたとき、ふと脳があるアイデアを導く。
「待てよ……? よく考えたらゲームブックって後ろのページに進むよな……?」
枕にしていたゲームブックを後ろから開いてみる。
そこにはゲームクリア!と書かれている番号とページ。
その番号を記憶して、さらに前のページへと遡る。
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→ 4022ページへ
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「あ、この選択肢が正解に至るルートか!」
先ほど記憶した番号のページへと移動する選択肢を見つける。
ゲームブック教科書の必勝攻略法がわかった。
「最初からプレイするんじゃなくて、
ゲームクリアから逆算していけば最短攻略できる!!」
ゲームブック教科書の終盤から最初に向かって読み進める。
問題も答えも見ちゃいない。
見てるのは選択肢の移動先の数字ただひとつ。
自分が遡ってきたページ番号が書かれているものだけたどっていく。
気づけばあっという間に最初のページに戻った。
「はっはっは! ゲームブック教科書クリアだ!
答えから辿ってきたから、
逆に最初からスタートしても最短で答えにたどり着ける!」
問題も解答もわからないが、番号だけはきちんと覚えている。
今度はスタートからゴールまでたどることも余裕。
補修完了のベルを鳴らすと、補修室に先生が入ってくる。
「もうゲームブック教科書をクリアしたのか」
「はい、僕が本気を出せばこんなもんです」
「本当にクリアしたんだろうな? いくらなんでも早すぎる」
「ちゃんとクリアしましたよ? 当然じゃないですか。
もう一度プレイしてもゴールまでたどり着けますよ。試しますか?」
「いや、その必要はない」
「どうしてですか?
先生がお茶を飲みきる前にゴールまで到着してみせますよ」
「必要ない。だって……」
先生は持ってきたプリントを掲げてみせた。
「ゲームブック教科書をクリアしたってことは、
この理解度テストも当然すべて正答できるはずだもんな?」
理解度テストを見て血の気が引いた。
ペラペラ1枚の用紙が机の上に置かれる。
【問1】縄文時代に盛んに作られた器は?
もちろんわからなかった。
補修室にはふたたび鍵がかけられた。
ゲームブック教科書 ちびまるフォイ @firestorage
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