第四話 良妻アピール
翌朝、ミリアたちは魔王の住むエリアである魔境に本格的に足を踏み入れた。
侍女のルナを含む非戦闘員にとって、魔境はさすがに危険すぎる。ミリアは、昨日の野営地に結界を何重にもして貼り、彼らに待機してもらうことにした。
(これでようやく戦闘員だけの少人数パーティね!)
ミリアはついでに、
(ゼイン様と二人でもいいのにな)
なんて独りごちる。
流石に魔境に入ると、魔物の数は一段と多くなる。次々と襲い掛かってくる魔物たちを、ミリアは魔女っ子ステッキで薙ぎ払っていく。
あんまり多く倒すと、ゼイン様から「俺、必要だったか?」と言われそうなので、上手に加減する。時々、見せつけるように優雅に倒し、後は騎士たちに任せた。
騎士が「ウワァー」と叫びながら魔物に襲われる。それをミリアがすかさず治癒や簡単な防御魔法で援護しながら、魔物を倒していく。
(ん?)
遠くで、
(あれは、助けなくていいかしら? 人数も減るし、ガイコツが減るなら私にとっての環境改善よね)
なんて酷いことを考えていたら、ミリアが動くより早く、華麗な剣さばきでゼイン様が魔物を倒した。
(魔物の血がついた剣を払う姿も、美しすぎて尊いわぁ)
ゼイン様はなかなか腕の立つ人だった。「魔王を“最低限”倒す力を持った人物」と指定したつもりだったが、かなり強いと思う。本当に、この魔王討伐なら二人で余裕で行けたよなぁ、と改めて思った。
魔王城まであと半分といったところまで来たが、騎士たちの疲労が激しく、野営地を張ることになった。
息も絶え絶えの
そして気がつく。ミリアはうなだれた。
(しまった……うっかりサクサク進んでしまったけど、本来の目的を忘れていたわ。ゼイン様との仲を深めるためにこの
肩を落としながら炊き出しの準備をしていたら、ゼイン様が近づき、炊き出しを変わると言ってきた。
「え? いいですよ、ゼイン様は休んでいてください」と言うと、彼は冷たい声で返した。
「お前、疲れているんだろ。昼間、あんなに動いて、騎士たちの治癒までして、ここまでしなくていい。俺がやる」
そう言って、調理器具を取られた。
(もしかして疲れてると思ったのかしら? ゼイン様ったら、優しすぎない!? カッコよくて、強くて、気遣いができて、優しいとか、最強じゃない!)
感動でふらつきそうになるミリア。その背中を咄嗟にゼインが支えてくれる。だが、すぐにパッと手を離し、「すまん」と、触れてしまったことを謝られた。
(イケメンすぎて鼻血でそう……なんて紳士なの……)
ふと、彼のジャケットが、魔物との戦闘で少し破れているのが見えた。
(これはアピールチャンス!!)
「ゼイン様、ありがとうございます。ですが、そのジャケットが少し破れています。脱いでください。直しますので」
「いや、別にいい……」と断ろうとしたゼイン。
「ゼイン様がご飯を作ってくださっている間、私はゆっくり座っていますので、ジャケットをお預けください」
ミリアがそう言うと、渋々といった様子で渡してくれた。彼の体温の残るジャケット。
(くうぅ……顔を埋めて匂いをかぎたいけど、ヤバイやつだって思われるわね)
そんな衝動を抑えつつ、持参したお裁縫セットを取り出し、ジャケットの破れを直しはじめた。ちらちらと、炊き出しを作るゼイン様を覗き見たが、ジャケットを脱いだ彼の身体は、よりその線がはっきりとし、均整の取れた筋肉が見て取れる。
(うわ……完璧)
ジャケットに鼻血がつかないようにしなくては、と思いながら手を進めた。
ゼイン様が作ってくれた炊き出しは、シンプルなスープと、干し肉に乾パンだったが、今まで食べた料理の中で最高の味だった。
彼にそれを伝えたら、「お前の味覚は壊れてるのか」と言われたけど、ミリアは気にしない。他の騎士たちは、彼の作った料理が気に入らないようだ。彼の料理は「野蛮な男の作るまずいもの」ということになっているのだろう。中々進んでない様子だった。ミリアはそれを尻目に、思いっきり食べた。
彼に渡した破れを直したジャケットも、「助かった」と、短いが感謝の言葉を伝えられ、ミリアは満足した。
今日は彼に「お裁縫もできる家庭的な女子アピール」ができたことに満足した。
明日も頑張ってアピールしなきゃ! と、ミリアは気合を入れ直した。
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