第五話 浄化の輝き


 魔境の最深部に差し掛かると、魔物の強さが格段に上がった。

 周囲には硫黄のような異臭と、肌を焼くような熱気が漂い、誰もがジリジリと汗をかいてしまう。


 襲い掛かる魔物たちは強靭で、騎士たちではもはや太刀打ち出来ていない。騎士団長ぽっちゃりオークなどは、ぽっちゃりお腹を上下させながら汗を垂らしているだけの置物と化している。


(ほんっとうに足手まといだわ)


 ミリアは心の中で毒づきながら、魔女っ子ステッキを振るい、魔物を倒し続けた。

 ゼインは、熱気の中でも涼しい顔で討伐を続けている。その動きには一切の無駄がない。


(はぁぁ……今日のゼイン様もカッコイイわぁ。少し汗ばんだお顔なんて色気増し増しで、キュンキュンしすぎて顔が見れないわ)


 そう思いながら、ミリアはゼインをガン見し続けた。



 討伐を続け、魔王城の近くまで来た一行は、不気味な湖を発見した。

 湖水はどす黒く、水面からは湯気のようなものが立ち上っている。


(これは水着でセクシーアピールチャンス!? なんて考えたけど、流石にこんな色をした湖で、そんなことしてたらドン引きよね)


 ミリアが冷静に判断を下していると、宰相閣下ガイコツが「湖だ!」と言って駆け出した。暑さと疲労、流れた汗のせいか、いつにもましてガイコツな彼は、汗を流そうと顔を湖にツッコんだ。


「うわぁぁ顔が! 顔があぁぁ!!」 


 すぐに宰相閣下ガイコツは叫びながら悶え始める。


(流石にこの色は瘴気溜まりの湖でしょうね。そんなところに顔を突っ込んだら腐るわよ。でも、あの顔がもっと崩れたらもっとイケメンってことになるのかしら?)


 ミリアはそんなことを思う。皆、湖の瘴気を恐れて誰も宰相閣下ガイコツに近寄れないでいた。

 ふと、ゼインが宰相閣下ガイコツに近づき、水場でばしゃばしゃしている彼の首を掴んだ。そのまま力任せに湖から引き離す。宰相閣下ガイコツを引き上げたとき、瘴気の水が、ゼインの手や顔にかかった。ミリアはその箇所の色が、みるみるうちに赤黒く変色していくのを見て、血の気が引いた。 


(ゼイン様の美しいお顔に傷がつくなんて!)


 するとその時、湖の中からゆらりと巨大な影が立ち上る。


「ふはははは、勇者と聖女一行よ。よくぞここまで来たな。私は、魔王様の直属の部下、セルウェイだ。私は水を操る魔物。この瘴気の水がお前たちを腐らせ……」

「お黙りなさい」


 セルウェイが言い切るのを、ミリアの静かな力強い声が邪魔をした。魔女っ子ステッキを力強く握りしめ、魔力を限界まで開放した。ミリアはセルウェイに見向きもせず、むしろ、セルウェイを背後にし、ゼイン様に向けて浄化魔法を発動した。


『浄化の光よ、今こそ大地に満ちよ。闇の穢れを焼き払い、万物の原初の姿を取り戻せ!』


 ミリアのプラチナブロンドの髪が光を放ち、アメジストの瞳が強く輝く。ステッキの先端に集束した膨大な魔力が、あたり一面に爆発するように広がり、黄金色の光の渦が野営地一帯を包み込んだ。


 その瞬間、ゼインにかかっていた瘴気による赤黒い変色が、光とともに消え去り、元の健康的な肌の色に戻る。宰相閣下ガイコツの顔の腐食もたちまち治癒された。

 瘴気の湖のどす黒い水は、光の奔流に洗われるように透明になり、清らかな輝きを放つ真水へと変わっていった。


 そして、瘴気の湖の水を操ろうとしていた魔物セルウェイは、浄化の光に直接さらされ、「うわぁぁぁ」という断末魔とともに、あっという間に蒸発するように消滅した。


「凄いな……」


 ゼインは目を丸くして、ミリアを褒めてくれた。彼の表情に、驚きと、純粋な称賛の念が見える。ミリアは、ゼイン様の無事を確認し、ようやく安堵の息をついた。


「この湖を、この魔境を正常な森へと戻したかっただけですわ」


(ゼイン様の美しいお顔に傷をつけるなんて許せないんだから!!)


 ミリアの真摯な態度に、宰相閣下ガイコツが駆け寄り、顔を光らせて感謝の意を述べた。


「ミリア様! 私への熱い思い、この命の恩義、決して忘れませんぞ!」





 ミリアは辺りを見渡し、ここでの野営を決めた。


「この先はさらに危険ですわ。ここで今日は野営しましょう。明日はおそらく、魔王との対決となります」


 ミリアはそう言い切ると、力強く続けた。


「ここに、強力な結界を貼っておきますので、魔王との決戦は宰相閣下、騎士団長様と皆さんはここで待っていてください」


 騎士たちは、ミリアの言葉に感動して、涙ぐんだ。


「ミリア様は、我々の命を惜しまれているのですね……!  俺達は最後までご一緒します!」


 口々にそう言う騎士たちを前に、ミリアは淋しげに微笑んだ。


「まぁ……みなさん………」

( 足手まといだから言ってるのよ。最後くらい二人っきりにさせなさいよぉぉ!!)


 そんなことを考えているミリアを、ゼインは静かに見つめていた。彼の視線は、ミリアの聖女としての振る舞いと、その裏にある芯の強さを観察しているようだった。



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