第二話 万能な妹
(琥珀、遅いなあ)
陽も落ちて、午後六時半を過ぎようとしていた。琥珀の帰宅が遅いのは今に始まったことではないが、やっぱり自分も一緒にいけばよかったかなと思った。
「……」
ふと美愛の言葉を思い出す――まさかね。あの子に彼氏がいるなんてことは……
あまり考えたくないが、もし琥珀に彼氏ができたのなら、まず一番に自分に言ってくれるはずだと思っていた。
(けど本当に彼氏ができたら……)
一緒に帰ることも遊びに行くことも少なくなるだろうと思った。
(こんな時間まで遊びに行ってるのも良くないよね――というか他の学校の男子とかにナンパされたりしたら……やっぱり今度から私が一緒についていこうかな)
妃咲はスマートフォンで琥珀にメッセージを送った。初等部のころからの琥珀への〝保護者〟ぶりを高校生になってからも発揮しようとしていた。
するとしばらくしてから返信があった。見てみると琥珀が友達と一緒に写っている写真だ。どうやらまだカラオケにいるらしい。
(まあでも、あの子はああ見えて結構しっかりしてるし、私が心配しすぎてるだけなのかも)
琥珀は服装や髪のことで先生に目をつけられてはいるものの、学校の成績は良い方だし、遅刻もせず、むしろ委員会やボランティアなど積極的に参加している万能なギャルだった。
そんな彼女の手本となるからこそ、妃咲も初等部のころから学年の上位一パーセントに当たる「成績優良生徒」に選ばれていた。
(それにひきかえあいつは……)
直哉は学校の成績もパッとしなく、表立って活躍することは皆無だった。けれどもその穏やかな性格と優男という外見で女子には人気があるらしい。
(中身が薄っぺらのあいつのどこがいいんだろ。せいぜい外見しか見ない低レベルの連中にしか好かれない……って、私も人のこと言えないか)
妃咲はため息をついた。
◇ ◇ ◇
琥珀が家に帰ってきたのは八時を過ぎたころだった。母親に小言を言われつつ彼女が自分の部屋に戻ってきたところで妃咲が声をかける。
「お帰り。遅かったわね」
「ちょっと盛り上がっちゃってさ~気付いたら時間ヤバイって話になって急いで帰ってきた」
「お父さんがいたら怒られてるわよ」
「そうだねえ。今度からは気を付けるよ」
実際にはその度に妃咲が彼女の擁護をしていた。
「あーあ、英語の課題やらないと」
琥珀はカバンをゴソゴソとしながら言った。
「手伝ってあげるわよ。どこが出たの?」
「大丈夫大丈夫。わからなかったら教えてね」
そう言って微笑むと、琥珀は自分の部屋に戻っていった。
(ふむ。さすがは私の妹)
妃咲も納得しながら部屋に戻った。
◇ ◇ ◇
ところが翌朝に琥珀から話を聞くと、昨日は直哉の部屋で彼の宿題を手伝っていたようだった。
「はあ? じゃあ結局直哉の宿題を手伝っていたの?」
「ウン。なんかさ~そういえば部活どうしようかって訊こうと思ったら頭抱えてたからさあ」
「放っておけばいいのよそんなの。なんでいちいち手伝ってあげるのよ」
「え~でも、妃咲も私のこと手伝おうとしてくれたじゃん?」
「う……それは、琥珀はちゃんとやろうと思っているからよ。直哉のはただの甘え」
「でも直哉の苦手な化学だったみたいで、本気で苦しんでたよ」
「とにかく、簡単に助けてあげちゃだめよ。昔っからそうじゃない。そろそろアイツも兄らしくすべきだわ」
あくまでも直哉を擁護する琥珀にもどかしさを覚えながらも、妃咲は人の良すぎる彼女の行動をたしなめるように言った。
「妃咲みたいなカンペキ人間に言われたら誰だって無理だよ~」
「何を言ってるの、私は完璧なんかじゃないわ。勉強なんかよりずっと大切なことがあるもの」
それは幾度となく妃咲が痛感していることだった。妃咲は琥珀のことが大切だと思うのと同時に、その誰からも好かれる性格が羨ましくもあった。
自分は周りから良く見られても、心の中では罵詈雑言レベルで相手を罵ることもある。けど琥珀は本当に裏表がなく、明るくて一緒にいると楽しいのだ。
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