住良木姉妹

滝川エウクレイデス

プロローグ 住良木姉妹

第一話 住良木姉妹



 ──ごめんね、琥珀こはく。貴方と一緒にいられて幸せだった──

 この世に生まれてきてごめんなさい。




 五月──新緑の季節。

 住良木すめらぎ妃咲きさきは高校生になって一ヶ月が経った今も、不満を抱いていた。


(どうして、あの子はあいつなんかに構ってばかり――)


「あの子」とは、妃咲の妹のことだった。妹――琥珀は妃咲の一卵性双生児で、小さいころからとても仲良しの姉妹だった。

 妃咲はみんなの模範となるイメージを周りから持たれるほどの優等生で、妹の琥珀のことが大好きだった。双子だけれども琥珀はあくまでも妹、妹の模範となって昔から努力してきた。今でも彼女の「さすが妃咲だね」という笑顔を見ると最高に幸せな気分になる。

 そうしているうちに妃咲はみんなからの模範となるくらいの優等生となっていた。

 妃咲が不満に思っているのは「あいつ」が原因だった。

 二人は双子なだけではない。さらに同い年の兄がいた。彼女たちは三つ子の兄妹で、その兄が妃咲を苛立たせる要因でもあった。

 三人とも、初等部からこの学園に通っている。


(どうして、直哉なおやのことばかり――)


 兄の直哉の所属している部が仮入部期間を終えてもなかなか入部希望者が現れず、廃部の危機となっていた。妃咲を今苛立たせている事の発端は、それを聞いた琥珀が自分が入部して部員を集めてあげると言い出したことだ。


(絶対ありえないでしょ! 琥珀が『道路研究会』なんてマニアックな部に入部するなんて)


 その話を聞いた日の放課後に、妃咲は早速琥珀のいる隣のクラスへ向かった。


「あら? 姫、どうしたの?」


 妃咲が教室の中を見ていると、琥珀のクラスの友達に声をかけられた。姫、とは「妃」にちなんだ彼女のあだ名のような物だった(本人は気に入っていないが)。


「琥珀は?」

「なんかすぐに教室出ていったけど」

「もうっ」


 妃咲はすぐに直哉のクラスへ向かった。そして彼の教室に行くと、やはり琥珀はそこにいた。ギャルである彼女の姿はひと際目立つ。


「琥珀、ちょっと!」

「あれ? 妃咲じゃん」


 琥珀が振り返る。そして彼女のそばには兄である直哉がいた。


「ちょっと、来なさい」

「えっ?」


 妃咲は琥珀の腕をつかんで廊下に連れ出した。


「どーしたの?」

「どうしたのってこっちのセリフよ。貴方、本当にあいつの部に入る気?」

「なんか廃部になっちゃうとか困ってるし? 私が入ってあともう一人勧誘できればなんとか部が存続できるって」

「貴方が入部する前提でどうするのよ。あんなマニアックでわけのわからない部なんて――」

「いやー、廃道のトンネルとか、なんか肝試しみたいで面白そうじゃん?」


 琥珀はアハハと笑って言った。

 住良木琥珀は明るい笑顔の似合う女の子だ。中三のころから髪を明るめの金髪にしており、すっかりギャル化してしまった。

 元々琥珀はとても明るくコミュニケーション能力が豊かで、あか抜けた彼女の性格は、男子だけでなく女子からも好かれている。


「そもそも、貴方部活に入ってるじゃない」


 彼女は妃咲と同じ、合唱部に入っていた。


「うん、まあ」

「かけもちなんてできるわけないでしょ――ったく」


 妃咲は再び教室の中に入るとツカツカと直哉の席の前までやってきた。


「貴方、どういうつもりなのよ」

「な、なんだよ――いきなり」


 妃咲の威圧するような視線に、直哉は気圧されたように構えた。


「琥珀を入部させるなんて絶対に許さないわよ」

「お、俺が言ったんじゃないって――」


 しかし妃咲はバン、と直哉の机に手をついて、


「廃道部だかオカルト部だかよくわからないけど、どうでもいい貴方の部活のためにあの子を巻き込まないで頂戴」

「違う、道路研究会、だ」

「どうでもいいわ」


 妃咲はフン、と言って琥珀を連れて行ってしまった。



 ◇ ◇ ◇



「妃咲~、直哉が困ってるって言ってるよ?」


 琥珀は直哉の教室を振り返りながら言った。


「あんなの放っておきなさい。どうせ一学期までは三年の先輩が残っているんでしょ」

「でも三年の先輩が辞めちゃうと最低人数割っちゃうんだってさ」

「いいんじゃない? 部も〝廃〟にすれば」

「アハハ、超ウケる」


 琥珀はケラケラと笑った。

 すると彼女の友達がやってきた。


「琥珀ードコ行ってたの? 帰ろう」

「あ、姫も一緒? カラオケ一緒に行く~?」

「私はいいわ。誘ってくれてありがとう」


 妃咲はそう言って琥珀たちと別れた。


(うーん……)


 いまひとつ琥珀の〝ギャル友〟にはなじめなかった。自分とはタイプがまるで違うし、趣味が合うとも思わない。嫌いというわけではないが、彼女たちとはそこまで親しくもなかった。


「姫~」


 すると今度は聞き慣れた声が聞こえてきた。一人の女の子が駆け足でやってくる。


「すぐにどっか行っちゃうんだもん」


 財田たからだ美愛みあいは口をとがらせて言った。妃咲を「姫」と名付けた張本人だ。妃咲の初等部からの親友で、現在は同じ合唱部に所属している。


「ごめんなさい。ちょっとね」

「何かあったの?」

「ええ。直哉のバカが琥珀を怪しげな集まりに無理やり勧誘しようとしていたからクギを刺してきたの」

「アハハ、相変わらず直哉くんに対して辛辣だね~」

「私は事実を言ったまでよ」

「でも直哉くん本当に道とかそういうの好きだよね。よく自転車で色々行ってるんでしょ?」

「さあ、私には興味ないわ」

「もし廃部になっても、自転車部とかなかったっけ? アレに入ればいいんじゃない?」

「そうね。だったら琥珀が余計なちょっかいを出すまでもないわ」


 すると美愛はおかしそうに妃咲を見た。


「何?」

「ううん、やっぱり姫は高校生になっても琥珀ちゃん好き好きモードは変わらないんだねえ」

「余計なお世話よ」

「けどもう高校生だし、いつ琥珀ちゃんに彼氏ができてもおかしくないよね~」


 その言葉を聞いて、妃咲は歩くのをピタリと止めた。


「誰か、いるの? そんな、相手が」

「姫、顔が怖いんですけど……けど琥珀ちゃんなんて中等部のころからいたって不思議じゃないじゃん? それに誰にでも明るく接してるから勘違いしてる男子とかたくさんいるだろうね」

「ハッ」


 妃咲は蔑むように笑った。


「男子って馬鹿で単純よね。あの子が本気で相手してるわけないじゃない」

「おお、手厳しい」


 けれども美愛は妃咲が男子を見下している理由は知っていた。妃咲が〝清楚で完璧なお嬢様〟というイメージ、見た目だけで話したこともない男子から告白されたりしてうんざりしているのを知っているからだ。


「……まったく、双子なのに似てるようで似てないこと」


 美愛は肩をすくめて言った。

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