第3話 正解はそうじゃなかった

「やっぱりこれは付けられないよな…」


雨で水浸しになったブラをビニール袋に入れる。

幸い下の方は問題ない。もし下まで使えないなんてことになってたら…考えないでおこう。

借りた龍太郎の部屋着は流石に体格差があるからデカいけど、ズボンには紐があるし、スルッと落ちたりはしなそうだ。

鏡の前で服を着た自分を眺める。

昔体育着を借りた時は、こんなにドキドキしてなかった。

柔軟剤の良い匂い。


「…!?よくない、平常心だ…平常心」


首を振って心を落ち着かせようとする。

自分だけがこんな気持ちになっても、ただ辛いだけだと自分に言い聞かせて。


龍太郎は台所で飲み物を飲んでいた。

俺がシャワーを浴びてる間に温かそうな部屋着に着替えている。


「先に浴びちゃってごめんな」


龍太郎はこっちに振り向いたけど、ただじーーっと見てくる。


「あの…何か変?」


恐る恐る聞いてみる。


「…ああ、いや。どうだ、サイズとか問題はなかったか?」


「ブカブカすぎて笑うわ、デカすぎるんだよ」


「念の為叩かれた場所を見てもいいか?」


「もう痛くないから大丈夫だって」


龍太郎がどんどん近づいてくる。


「もしかして、本当は平気なフリをしているんじゃないか?」


「はぁ!?何でそんなことしなきゃなんねーんだよ!」


「心配させない為に」


俺の目の前に来た龍太郎との身長差は凄くて、見上げて顔を見ていると少しドキッとする。

でも、龍太郎の顔は真剣で、なんだか難しい顔をしてる。


「最近ずっと考えていたんだ。何でたまに苦しそうな、抱え込むような表情をしているのかって。裏であんな目に合ってたことを、俺は気づけなかった」


「それは───」


「相原は野球部のマネージャーだ。沢山関わっていたにも関わらず、あんなことをするような奴だったと気づけなかった。俺がライキを傷付けてしまったも同然だ」


龍太郎はそう言って、辛そうに目を閉じた。


「本当に…」


こんなに辛そうな龍太郎を初めて見た。

違うんだよ、お前が助けてくれてからもういじめは受けてないんだ。

こんなに俺のことを考えてくれてるなんて、本当に大切に思ってくれてるんだよな。


頭に軽くチョップする。


「…?」


龍太郎が目を開けて不思議そうにこっちを見る。


「人を信じすぎたり、疑えないってのは龍太郎の悪い所だ。でも良さでもあるだろ。俺は龍太郎の真っ直ぐで優しい所、好き…だから」


初めて話す、ギリギリバレないと判断した本音。

龍太郎は少し驚いた様子で顔を見てくる。

心の傷を癒すには、力になってるとちゃんと自覚させることが大事だ。


「ほら、見るんだろ」


自分の頬を指さす。

龍太郎が叩かれた部分の頬を触ってくる。ちょっと冷たい。あ、体温が下がってるんだ、シャワー浴びさせないと。

どんどん変な気持ちになってくる。龍太郎はただ心配なだけなのに。俺だけこんなに…。


「! すまん、冷静じゃなかった」


龍太郎がいきなり頬から手を離した。

もっとしてほしかった…なんて。

まぁ安心した、もう大丈夫そうだ。


「?」


龍太郎が俺の方を見ようとしない。

さっき帰ってきた時もこんな感じだった。

透けたスポーツブラを見て急ぎ足で出ていって…耳が赤くて…。


「よし、俺もシャワーに行くとしよう。ライキは先に部屋に行ってて良いぞ、漫画でも読んでいれば良い」


さっきみたいに台所を出ていこうとする。

とっさにその手を取った。


「龍太郎…?」


俺の方を中々見ない。

そのまま時間が過ぎていく。


「すまん」


先に話したのは龍太郎だった。


「ライキがその体を気にしているのはよく知っているし、それで苦労する姿を何度も見てきた」


心臓の鼓動が激しくなる。


「だから、言えばきっと、物凄く困らせてしまうって」


動けない。ただその言葉を待っている俺がいる。


「…」


何で言ってくれないんだよ、俺は……。

……今気づいた。

俺は自分から行動することを避けてた。

この関係が壊れるのを恐れてたから。

正解はそうじゃなかったんだ。


龍太郎に後ろからギュッと抱きついた。

息遣いが荒くなる、心臓が龍太郎に聞こえるんじゃないかってくらい鳴る。


「…部屋行こう?」

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TSしたら親友♂が大好きになっちゃったけど、素直に言えるわけがない! かきまぜたまご @kakimazetamago

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