第二話 朝の輪郭
目覚めは、静かだった。
夢を見た記憶だけが残り、夜のようなリアルさは消えていた。
昴龍は天井を見上げたまま、数秒だけ呼吸を整える。
ここは仮の住まい。
二階建てで、無駄に広い。
学園に通うため用意された家だ。
階下から、微かな音がする。
包丁がまな板に当たる規則正しい響き。
味噌の匂いが、空気に混じって上がってくる。
――起きているな。
ベッドを出て、階段を下りる。
吹き抜けのある一階。
朝の光が大きな窓から差し込み、床に影を落としている。
台所に立っていたのは、龍華だった。
白米が炊き上がり、味噌汁の湯気が立つ。
焼き魚、小鉢、卵焼き。
飾り気のない、和食の朝食。
「おはよう、兄さん」
「……おはよう」
声を出して、現実を確かめる。
龍華は一瞬だけ昴龍の顔を見て、それから何も言わずに配膳を続けた。
昨夜のことには触れない。
それが、二人の暗黙の了解だった。
向かい合って座り、箸を取る。
「魚、焦げてない?」
「火、強かったかも」
「大丈夫?」
「大丈夫。おいしいよ」
そんな会話。
米を噛む音。
味噌汁の温度が、内臓に落ちていく感覚。
昴龍は、食べながら思う。
こういう時間が、いつまで続くのか。
食事を終え、洗面所へ向かう。
水で顔を洗い、タオルで拭く。
鏡の前に立った、その瞬間――
目が、金色だった。
いや、正確には違う。
片方の目が、金と――その反対の色に、割れている。
境目は曖昧で、
二つの色が、瞳の中で半分ずつ滲み合っていた。
光を拒むような、深い色。
瞬き。
もう一度、鏡を見る。
そこに映っていたのは、
今の自分より少し幼い――幼少期に近い顔をした自分。
目だけが、こちらを見ている。
次の瞬間、すべてが消えた。
普段通りの顔。
普段通りの瞳。
昴龍は何も言わず、歯を磨き、髪を整える。
異常をなかったことにするのは、慣れている。
着替えを済ませ、玄関で靴を履く。
龍華も準備を終え、並んで外に出た。
試験会場までは徒歩圏内。
龍族組合の建物。
学園は隠蔽されている。
だが、その入口に立つ資格を測る場所は、ここにある。
朝の街を歩く。
いつも通る道。
いつも見る建物。
それなのに――
「……なんか、今日、街が違って見えるね」
龍華が言った。
「そうか?」
「少し緊張して、感覚が鋭くなってるのかも......」
昴龍は答えなかった。
自分にも、同じ感覚があったからだ。
空気が張りつめている。
周りの視線が、こちらを見ている。
前方に、龍族組合の建物が見えた。
試験は、すぐそこだ。
ここでは、過去は関係ない。
問われるのは、実力だけだ。
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