第一話 悪夢の残響
息が、乱れていた。
喉の奥で空気が引き裂かれるような音がする。
歯が噛み合い、擦れ、低い呻きが漏れた。
紅月昴龍は、夢を見ていた。
白い部屋。
光源の位置が分からない、均一すぎる明るさ。
金属の匂いと、消毒薬の刺激が鼻腔に残る。
拘束具が四肢を押さえつけている。
逃げようとする意思だけが先にあり、身体は動かない。
――まだ、足りない。
誰かの声。
感情の温度を欠いた、研究者の声。
骨に直接触れられる感覚。
血が抜かれ、戻され、別の何かが注ぎ込まれる。
龍の血。
自分のものか、そうでないのか、もう分からない。
意識が沈む直前、硝子越しに見えた“それ”は、
自分と同じ顔をしていた。
目が、開いた。
暗闇。
天井の木目がぼんやりと視界に入る。
昴龍は息を吸い込み、吐いた。
胸の奥が、まだ痙攣している。
「……兄さん」
かすれた声。
隣で、龍華が身を起こしていた。
夜灯に照らされた表情は、眠りの名残よりも不安が濃い。
昴龍は何か言おうとして、言葉を見失った。
代わりに視線だけを向ける。
そこにいる。
現実の温度を持った存在が。
安堵が、遅れてやってきた。
力が抜けた拍子に、視界が歪む。
頬を伝うものがあった。
龍華は一瞬ためらい、それから動いた。
昴龍の頭を胸元に引き寄せる。
抱き込むように、逃がさない力で。
「大丈夫……ここだよ」
その声は、呪文みたいだった。
昴龍の呼吸が、ようやく揃う。
涙は止まらなかったが、抗う気力もなかった。
しばらくして、再び眠りに落ちる。
今度は、深く。
龍華はそのまま、動かなかった。
この家は仮の住まいだ。
壁は薄く、床鳴りもする。
だが、今はそれでいい。
明日――正確には、もう今日。
入学試験がある。
学園は隠蔽領域に存在し、部外者は立ち入れない。
そのため試験は、人間界にある龍族組合の建物を借りて行われる。
筆記試験。
実技試験。
龍華は眠る兄の髪に、そっと指を通した。
小さく、決意だけを胸に沈める。
夜は、まだ終わらない。
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