王の手記(年代不詳)

――年号記載なし


白髪を数えることはやめた。

数える意味がない。


研究は進んでいる。

進んでいるはずだ。

だが、完成しない。


龍の血は莫大な力を持つ。

それは疑いようがない。

問題は制御だ。


血は器を選ばない。

誰のものであっても作用する。

だが、血だけでは足りない。


龍以外の器では、不足した何かを人の生命力から補おうとする。

結果、身体は異常なまでに強化される。

同時に、生命そのものが削られる。


頁の下端が破れている。


龍の心臓が必要だ。

血を循環させる中枢。

変換を行う器官。


私はそれを

〈龍核〉

と呼ぶことにした。


血は力だ。

龍核は、それを制御するための構造だ。


だが、龍核は単独では機能しない。


紙の縁が黒く変色している。


龍核は拒絶する。

人の身体を。

異なる種を。


拒絶反応は激しい。

移植された者は、

ある者は身体の内側から燃え、悲鳴の中で崩れ落ち、

ある者は凍りつき、何が起きたか理解する間もなく停止した。


筆跡が乱れている。


龍の額部、または胸腔奥に存在する鉱質の器官。

翡翠に似た外見。

だが、比較にならぬほど澄み、美しい。


色は一定ではない。

火の龍は赤。

雷は青。

風は淡く、ほとんど透明に近い。


私はこれを

〈龍玉〉

と名づけた。


行間に暗い染みが広がっている。


龍玉がなければ、龍核は応じない。

龍核と龍玉は対だ。

必ず、同一個体でなければならない。


血は誰のものであってもよい。

だが、

心臓と玉は、必ず同じ龍のものでなければならない。


――年号欠落


隣国から商人が来なくなった。

使者も来ない。


最初は偶然だと思った。

次に不作。

次に内乱。


理由はいくらでも考えられる。


だが、国境の兵が言った。

隣国兵が、国境に立ったまま動かないと。


特使を送った。

帰ってこない。


再度送った。

隣国兵は言った。

「本国から、何も届かない」


音信不通。


頁の中央から下が失われている。

裂け目は乱雑で、刃物のものではない。


残された文字も途中で途切れ、

墨が擦れ、滲み、判別できない。


 


…龍が……


 


…………襲っ……


 

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