第11話 カフェ
#11カフェ
事件の翌日。
幸は、予備校のすぐ近くにあるカフェに立ち寄っていた。
入口をくぐると、小綺麗でガランと空いた店内が迎えてくる。
「お好きな席にどうぞ」
幸は店員の案内に従い、視線を横に向けると──驚くべき二人組を発見した。
大きな一枚窓のそばに並んでいる四つのテーブル席。そのひとつに──
『例の警備員』、そして『雅 有珠』が向かいあって座っていた。
*
(──まだ、こちらに気づいていない…)
急いで、死角になる席へと滑り込む。
ソファに腰を下ろすと、幸は仕切りの上からゆっくりと顔を出した。
──二人は会話を続けている。
幸は、マイクを向けた状態のスマホを仕切りの上にそっと置く。
録音しておき、後から音量を上げて会話を盗み聞きするつもりだ。
(…大丈夫。植物がカモフラージュになっているはず…)
また幸は、『何も頼まないのは変だ』と、待っている間に小声でメニューを注文する。
──しばらくして、再び様子を窺うと、二人は話を終えているようだった。
幸は、さっそくイヤホンを耳にはめて録音を聴いてみた。
「うおっ!」
音量を大きく設定しすぎたらしい。
一瞬、驚きが漏れてしまう。
静かな店内には、やや響く声だ。
それでも幸は、二人が気づいていないと判断して、録音に集中した。
雑音に混じって、会話が聴こえてくる。
『なるほど……あな…、ラ…バル予備校から…スパイを頼まれて…その…だわ』
『これ…見事だ…それで…』
「──スパイ?」
思わず声に出してしまう。
想像していたより、ずっとヤバイ話のようだ。
──不意に、幸の頭上に影がかかった。
注文したメニューが届いたのかと、幸は視線を上げる。
だが、そこにいたのは店員ではなく──
なんと、あの“警備員”だった…。
*
「盗み聞きとは、よくないね?」
そう言って、老人は幸の隣に腰を下ろす。
同時に、テーブルの反対側で椅子を引く音がする。
幸が目を向けると、有珠が向かいの椅子に座ろうとしていた。
幸は二人から距離を取ろうと、ソファの端に縮こまってしまう。
…子供と老人だというのに、どうしてこんなにも威圧感があるのだろうか。
前と横からの視線が幸の身体を強くこわばらせた。
──それでも、彼は勇気を振り絞り、目の前の少女に尋ねる。
「…この人、例の警備員だろ…? クビになったはずなのに、なんで一緒にいるんだ…?」
有珠は、その質問を無視するように言う。
「…あなた、どこまで聞いてたの?」
こちらの質問に答えてくれ……、そう思ったが、幸は仕方なく答える。
「この人が、“ライバル予備校のスパイ”だってとこまで……」
「そう…なら都合が良いわ」
彼女の返答は予想外だった。
…しかし、肝心のことは語られていない。
幸は、思わず立ち上がりそうになりながら、聞いた。
「それよりも! これは…どういうことなんだよ」
……その言葉に、少女と老人は一瞬だけ目配せをしたようだった。
天才少女『Gauss』 @1o27
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