第4話 魔法

 そして迎えた、最後の文化祭。

 最上級生になった私にとって、サークルはかけがえのない場所だった。とても居心地がいい場所だったし、尊敬できる子達で溢れていた。


 当時の私は『可愛くない』自分にコンプレックスを抱きながらも、自分のことを受け入れ始めていた。

 だから、人と比べて気にしすぎないようにしよう、と決めていた。


 可愛い衣装を着て、必死に練習してきたダンスを披露して、アイドルっぽい自己紹介をしてみたりして。

 純粋に楽しかった。私が卒業することを悲しんでくれる後輩もいた。


 やっぱり魔法だ、と思った。

 平凡で普通な女の子が、一年に一度だけアイドルになれる魔法。


 その裏には辛いこともたくさんある。大変な練習だとか、人と自分を比べて感じるコンプレックスだとか。

 正直、やめてしまおうか、と思った日だってあった。『可愛い』女の子から距離をとれば、自分が『可愛くない』ことを考えずに済む。苦しまずに済む。

 穏やかに生きるためには、感情の振れ幅を減らすべきだ。


 それでも、私はやめなかった。やめようかと思うたびに、特別な魔法を思い出した。

 辛くても苦しくても、あの楽しい時間をまた過ごせるのなら、私はやめたくなかった。

 だから、やめなかった。


 最後まで頑張ってよかった。最後まで頑張れた私を、私は前よりも好きになれた。


『可愛くない』私だけど、『可愛い』で溢れた場所に参加することを決めてよかった。





 大学を卒業してから、私はお客さんとして文化祭へ行くようになった。外から後輩達を見るというのは、少し不思議な感覚だった。

 みんなのことがすごく愛おしくて、大好きだった場所は、外から見ても大好きな場所なんだと思えた。


 それと同時に、異常な場所でもあったな、と思ってしまった。


 普通の女子大生が『可愛い』を売りにして、『可愛い』かどうかで見知らぬ他人からジャッジされる。

 酷い場所だ、と眉を顰める人もいるだろう。その考えを否定はしない。


 年を重ねるたびに、『可愛い』が持つ重要性は失われていく。年をとればとるほど、見た目以外の部分が重視されるようになるのは、あるあるではないだろうか。

 所属する会社、年収、学歴、資格、スキル、実績……そういったものが占める重要性が増していった。『可愛い』を売りにして生きる世界ではまた違うのだろうけれど、私が生きる社会ではそうだった。


 だから大人から見れば、容姿コンプレックスに悩むなんて、思春期特有の痛さでしかないのかもしれない。

 でも、私はそんな風に言いたくない。だってあの時悩んで苦しんでいた私の気持ちは本物だったから。


 だけどきっと、苦しみの記憶は薄れていく。

 既に今だって、あの頃の自分を思い出せても、共感はできなくなっているのだから。


 このエッセイを書いたのは、完全に忘れてしまう前に記録しておきたい、と思ったからだ。


 高校生のあの日。私が『可愛い』の持つ価値に気づいていなかったら、今の私はいなかっただろう。

 その世界線の私は、今よりずっと自己肯定感が高くて、自分に自信があって、人生をすごく楽しんでいたかもしれない。

 でも不思議と、気づかなければよかった、とは思わないのだ。


 だってあの日、『可愛い』に価値があることに気づけなかったら、私は『可愛い女の子』が大好きだ、ということに気づけなかった。

 大好きに出会えなかった。だからいいのだ。

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