第4話 魔法
そして迎えた、最後の文化祭。
最上級生になった私にとって、サークルはかけがえのない場所だった。とても居心地がいい場所だったし、尊敬できる子達で溢れていた。
当時の私は『可愛くない』自分にコンプレックスを抱きながらも、自分のことを受け入れ始めていた。
だから、人と比べて気にしすぎないようにしよう、と決めていた。
可愛い衣装を着て、必死に練習してきたダンスを披露して、アイドルっぽい自己紹介をしてみたりして。
純粋に楽しかった。私が卒業することを悲しんでくれる後輩もいた。
やっぱり魔法だ、と思った。
平凡で普通な女の子が、一年に一度だけアイドルになれる魔法。
その裏には辛いこともたくさんある。大変な練習だとか、人と自分を比べて感じるコンプレックスだとか。
正直、やめてしまおうか、と思った日だってあった。『可愛い』女の子から距離をとれば、自分が『可愛くない』ことを考えずに済む。苦しまずに済む。
穏やかに生きるためには、感情の振れ幅を減らすべきだ。
それでも、私はやめなかった。やめようかと思うたびに、特別な魔法を思い出した。
辛くても苦しくても、あの楽しい時間をまた過ごせるのなら、私はやめたくなかった。
だから、やめなかった。
最後まで頑張ってよかった。最後まで頑張れた私を、私は前よりも好きになれた。
『可愛くない』私だけど、『可愛い』で溢れた場所に参加することを決めてよかった。
◆
大学を卒業してから、私はお客さんとして文化祭へ行くようになった。外から後輩達を見るというのは、少し不思議な感覚だった。
みんなのことがすごく愛おしくて、大好きだった場所は、外から見ても大好きな場所なんだと思えた。
それと同時に、異常な場所でもあったな、と思ってしまった。
普通の女子大生が『可愛い』を売りにして、『可愛い』かどうかで見知らぬ他人からジャッジされる。
酷い場所だ、と眉を顰める人もいるだろう。その考えを否定はしない。
年を重ねるたびに、『可愛い』が持つ重要性は失われていく。年をとればとるほど、見た目以外の部分が重視されるようになるのは、あるあるではないだろうか。
所属する会社、年収、学歴、資格、スキル、実績……そういったものが占める重要性が増していった。『可愛い』を売りにして生きる世界ではまた違うのだろうけれど、私が生きる社会ではそうだった。
だから大人から見れば、容姿コンプレックスに悩むなんて、思春期特有の痛さでしかないのかもしれない。
でも、私はそんな風に言いたくない。だってあの時悩んで苦しんでいた私の気持ちは本物だったから。
だけどきっと、苦しみの記憶は薄れていく。
既に今だって、あの頃の自分を思い出せても、共感はできなくなっているのだから。
このエッセイを書いたのは、完全に忘れてしまう前に記録しておきたい、と思ったからだ。
高校生のあの日。私が『可愛い』の持つ価値に気づいていなかったら、今の私はいなかっただろう。
その世界線の私は、今よりずっと自己肯定感が高くて、自分に自信があって、人生をすごく楽しんでいたかもしれない。
でも不思議と、気づかなければよかった、とは思わないのだ。
だってあの日、『可愛い』に価値があることに気づけなかったら、私は『可愛い女の子』が大好きだ、ということに気づけなかった。
大好きに出会えなかった。だからいいのだ。
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