第5話 魔法使いになりたい

 大学を卒業して、年もちょっとだけ重ねて、『可愛い』で評価される世界とは縁遠くなって。

 それでも私はまだ、『可愛い』が大好きだ。

 そしてそこにもう、怯えはない。


 好きだから派手なロリータファッションだってするし、頭に大きなリボンだってつけちゃうし、ツインテールだってするし、メイクではいっぱいラメを使っちゃう。

『可愛くない』私がそんなことをしてもいいのかな、なんて思わない。他の誰でもなく『私』がしたいからそうする。それだけ。


 なにかを食べる時に、いちいちカロリー表示を確認することもなくなった。太ることへの恐怖を失った代わりにダイエットが難しくなってしまったけれど、でも、仕方ないかと笑いながらお菓子を食べられるようになった。

 昔の私からしたら、今の私は情けなく映るかもしれない。でも、心は穏やかだ。


 年をとったことと、環境が変わったことで私は変われた。

 今も高校時代のように、他人を『ブス』だなんて嘲笑う人達が周りにたくさんいたら、私はこんな風に割り切れていないと思う。


 もし今も容姿コンプレックスに苦しんでいる人が読んでいたら、『逃げて』と言いたい。もちろん今いる場所に居続けたいのなら、その思いは尊重するべきだと思う。

 けれど『可愛い』を売って叶えたい夢があるわけじゃないのなら、『可愛い』で評価される場所からなんて、逃げてしまえばいいのだ。


 私は昔、自分のことが嫌いだった。でも、自分のことを愛してはいたと思う。

 愛している自分が、好きになれる自分じゃないことが苦しかった。


 今、私は自分のことが前よりもずっと好きだ。

 容姿コンプレックスから解き放たれたから、という理由もあるし、夢に向かって進めているから、という理由も大きい。

 私はもっと自分のことを好きになりたい。そのために今必要なのは、小説で結果を出すことだ。


 結果を出さなきゃ自分を好きになれない、という私の考えが正しいとは思わない。でも私はそうなのだ。

 ここまで読んでくれた人には伝わっていると思うけれど、私はコンプレックスの塊のような人間である。そこに関してはもう、どうしようもない。

 けれどコンプレックスはいつだって、前に進む原動力になってくれた。コンプレックスを解消するために、私はいろいろなことを頑張ってこられた。


 これからも、そうやって頑張っていきたい。

 死ぬまでコンプレックスまみれだとしても、死ぬまで頑張れるのなら、それはそれでいいかもしれない。


 私はもう、可愛い服を着て、ステージで踊ったりしない。特別な魔法にかかることは、もうない。

 それでも、魔法のことを思い出す瞬間はまだある。私にとって過去のことになってしまったけれど、愛おしい過去として、いつでも取り出し可能な場所にしまってあるのだ。


 私の人生において間違いなく大事な瞬間だった。


 今の私にはもう『可愛い』の魔法はいらない。だから今度は、私が魔法使いになりたい。

 私が思う『可愛い』を詰め込んだ女の子を書いて、たくさんの人に読んでもらいたい。

 私があの日、ステージでたくさんのときめきを受け取ったみたいに、私の物語を通じて、誰かにときめきを届けたい。

 そんな風に思えるようになったのは、やっぱり特別な魔法のおかげ。


 いつか絶対、大量のときめきを届けられるような魔法使いになりたい。

 そのために今日も明日も明後日も、ずっと、ずーっと頑張っていこうと思う。


 自分を大好きになるためには結果がまだまだ足りないけれど、それでも、頑張れる私のことは、ちょっぴり好きだから。

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一年に一度だけ、アイドルになった頃の話 八星 こはく @kohaku__08

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